クルル君が銃を構える。

 狙いをつけ、引き金を引く。


「あーこりゃまた」

 クルル君の射撃を見て、ケロロ君が呆れたように呟いた。

 何発撃っても、かすりもしない。おまけに、小さな体には銃が重くて、もう息が上がっている。銃を構えようとするが、ふらふらとして持ち上がらない。

「クルル射撃ぜんぜんだめなのな」

 ケロロの君の目が、そう言いながらやっとのことで銃を構えたクルル君を見る。


 クルル君が撃つ。


 ケロロ君の目が、的へ向けられる。


 的から遠く離れたところで着弾。


 クルル君は、銃を売った衝撃でへたり込んでいる。


「あー、ゼロロよりへたくそ」

「ボ、ボクの名前出さないでよ、ケロロ君」

 ケロロが大声で言うので、ボクは顔を赤くした。実はボクも射撃はあまり得意な方ではない。

 射撃が上手いのは、ギロロ君だ。ボクはギロロ君が的から外すのを見た事がない。

 腕力のあるギロロ君は、クラスの皆が扱えないような重い銃でも片手で軽々と構える。

 狙いを定める鋭い目は猛禽類のよう。

 息を詰めるような沈黙の後、引き金を引けば、百発百中。

 射撃をする時のギロロ君は、本当にかっこいい。横顔にいつも見とれてしまう。

 ケロロ君も、口には出さないけど、きっとかっこいいと思ってるはずだ。ケロロ君、ギロロ君が射撃訓練している時いつも側にいるもの。……ボクもだけど。



「ギロロ先生ー、どう? 合格できそう?」

 腕を組み、クルル君の側でクルル君の射撃を見ていたギロロ君にケロロ君が叫んだ。

「だめだ。まったくだめだ」

 ケロロ君の言葉にギロロ君は厳しい顔でそう言うと、首を振る。

 クルル君は、口に手を当て、ばつの悪そうな顔をしている。さすがのクルル君も、減らず口を叩けないくらい超絶に下手だ。

「テストいつだっけ? 一週間後?」

 ケロロ君が頭の後ろで手を組みながら言った。ボクがうなずくと、やばくな〜い? とクルル君に話しかける。

 射撃は必修科目だ。一定のレベルに達するまで何度でも追試をさせられる。しかも、グループごとで。

「頭では分かってるんだが、体がついてかないぜぇ……」

 クルル君が、玉のような汗を流し、荒い息をつきながら言った。悔しそうだ。負けず嫌いなんだろう。体がついていかないのがもどかしいらしく、顔をしかめている。

「うはー、電波系にふさわしい言葉だねぇ」

 ケロロ君はのんきに言い、ギロロ君は首を振った。

「特訓が必要だな」

 ギロロ君が、組んでいた腕を解き、そういってクルル君に近づいた。クルル君が重くて持てず、地面に引きずっている銃を、片手で軽々と持ち上げる。


「頼んでねぇよ。よけいなお世話だぜぇ……」

「同じ班のお前が合格しないと俺たちが困るんだ。やるぞ、いいな」

「チッ……」

 クルル君は面白くなさそうに舌打ちした。


 それから、ギロロ君とクルル君のマンツーマンの特訓が始まった。

 ギロロ君は放課後毎日クルル君の訓練に付き合っていた。根気よく丁寧にクルル君に射撃のこつを教える。

 クルル君も、口ではなんだかんだと文句を言いながら、ギロロ君の特訓をサボる事は一度も無かった。


 そして、テスト前日。


「腰を落とせクルル。そう、よく狙え……」

 ギロロ君が銃を構えるクルル君の側でそう言った。

「そう今だ撃て!」

 ギロロ君の言葉にクルル君が引き金を引く。

 パン! という音とともに、弾は見事的に当たった。


「クルル、ずいぶん上手くなったじゃん」

 ケロロ君が大喜びでクルル君の元に走りより、はしゃいで言った。クルル君もまんざらではなさそうな顔をしている、

「当たり前だぜぇ。俺様は天才だからな」

「でも、ほんとに良くがんばったね」

 ボクもニコニコしてそう言った。クルル君のがんばりを知っていたから、クルル君の射撃の腕が上がった事は本当に嬉しかった。クラスでも最低レベルだったクルル君の射撃の腕は、今やギロロ君に次ぐ。もしかしたら射撃の才能があったのかもしれない。いずれにしろ、これで明日のテストは万全だろう。

「クルル」

 ギロロ君が不意に話しかけ、クルル君が振り向く。

「ク?」

「手を見せてみろ」

 訝しがりながらも素直に差し出された黄色い小さな手を取り、ギロロ君が口元に笑みを浮かべながらまじまじと見る。

「いい手だ」

 ギロロ君が満足そうに呟くと、クルル君がかすかに赤くなった。努力するところを見せるのはダサい。と思ってるクルル君としては、恥ずかしかったのだろう。

 クルル君の手は、銃を持って硬くなっていた。あちこちまめができている。クルル君の努力の証。

「がんばったな、これをやる。お守りだ」

 ギロロ君はそう言って、クルル君の手に何かを握らせた。

 クルル君が不思議そうな顔で手のひらをそっと開くと、そこには、弾丸のストラップ。

 クルル君が撃った弾を拾って、ギロロ君がストラップに作り変えたものだと聞いて、ケロロ君があからさまに欲しそうな顔をする。

「わー良いな、カックイー!」

「これ、火薬は入ってるのかよ?」

「入ってるわけなかろう! 空だ」

「チッ、危険度ゼロかよ」

「なに訳の分からん不満を漏らしてるんだ、お前は……」

「まぁ、せっかくだから貰っとくぜぇ」

 そう言って笑うクルル君は、結構、いやかなり嬉しそうだった。




「クルル? ああ……。奴、ボクのクラスにも来たよ」

 夕ご飯のあと、ボクは弟にクルル君の話をした。「すっごい天才がクラスにいるんだよ、名前はクルル君」ボクがそういうと、弟は話を聞きたがるどころか、眉根を寄せて嫌そうな顔をした。

「あ、そうなの?」

 弟の反応があまりにも否定的だったので、ボクは勢いをそがれる。

「嫌な奴だよね。お兄ちゃんのクラスにも来たんだ? なんでも完璧にできるからってさ、クラスの皆見下しててほーんと嫌な奴だった。友達もできなかったし、ボク達のクラスに居るときずっと本読んでるだけだったよ。あっという間に居なくなっちゃったけど」

 弟は、ボクがクルル君の悪口を言おうと名前を出したに違いないと思っているらしい。ボクは同意を求められて口ごもった。

「あ、ボ、ボク達のクラスではそんなにひどくはないけど……。お喋りとかよくするし」

 それは多分、ギロロ君とケロロ君のおかげだ。とボクは思った。

 クルル君は確かに嫌な奴だ。でも、ボクは嫌いじゃない。良いところもある。優れているところは素直に尊敬するし、面白いと思う。でもそれは、ギロロ君とケロロ君が、クルル君のそういう面を引き出して、ボクにも見せてくれたからだ。


 ボクは、転入初日のクルル君の態度を思い出していた。


 あの二人がいなかったら、きっと今のクラスでも嫌われ者の浮いた存在になったに違いない。


「はぁ? アイツが!?」

 やっぱり、と言うか、予想通り、ボクの言葉を聴くと弟は素っ頓狂な声を出した。

「それに、何でもできるって言っても射撃は苦手だったんだよ、可愛いじゃない?」

 ボクがそう言うと、弟はますます変な顔をする。

「射撃が苦手? あいつ、すっごい射撃上手いよ。テストのとき最高点とってたもん。でも、あいつ、撃ちさえすれば当たる銃を自分で発明して、ソレ使っていんちきしたって噂だったけど」

「え……」

 今度はボクが変な顔をする番だった。


 クルル君が、射撃が得意?

 どうして?

 射撃が苦手だから、喧嘩ばっかりしているギロロ君に嫌々ながら射撃を習っているんじゃないの?

 自分の発明でなんとかなるなら、なんで今回もそうしなかったの?


 クルル君、どうして……?


 ボクの頭の中にクェスチョンマークが回り、その夜はあんまり眠れなかった。



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