スペースカウボーイの逆襲







 ふうん、ここも先客有りかヨ……。

 カタカタというキーボードを叩く音が明かりを消した子供部屋に響く。

その音は、ベッドの中から聞こえた。

ベッドに潜り込み、布団を頭から被っている小さなふくらみ。ベッドの中では、ディスプレイの明かりが、忙しなく動く手の持ち主の顔を照らす。

 まん丸い目が悪戯っぽい笑みを湛え、ディスプレイを流れる数字の羅列を眺めている。

幼い顔立ちからすると、小訓練所も卒業していないくらいの年頃だろう。

コトン、コトンと階段を上る軽い足音が聞こえると、子供とは思えぬ集中力でディスプレイを見つめていた表情がはっと変わった。

あわててノート型PCのディスプレイを閉じ、枕の下に隠して寝たふりをする。

キィ……と音を立ててドアが開き、廊下の白熱灯の光が部屋に入ってきた。薄目を明けると、人影が近づいて来るのが見える。

「お休みなさい、トロロ」

 その人物はベッドにもぐった小さな男の子にそう声をかけると、頬にそっとキスをする。

「お休みなさい、ママ」

 眠そうな顔の演技をして、寝ぼけたような声でその男の子、トロロが言うと、ママは優しく微笑んでトロロの頭を撫でた。

部屋を出ていく後ろ姿がドアの向こうに消え、階段を下りていくのを見計らって、トロロがそーっと枕の下からノート型PCを引っ張り出す。

 バックドアがあるから楽勝ダネ、プププ。

 そうほくそ笑みながら、小さな手がキーボードを叩くたび、次々と小さな攻撃実行用のプログラムが仕掛けられていく。

 こいつらには、ボクのソーダイな計画の為のゾンビになってもらうんだからネェ、プププッ。

 ベルツノ大学で、ケロン大学院で、ゲロチューセッツ工科大学で。

 トロロの命令をコンピューターの中でひっそりと待っている、ケロンの木馬達。

大昔、木馬のなかに隠れ、敵を油断させた所で一気に攻撃を仕掛けて勝利を収めた戦いに由来して命名されたトロロの小さなプログラムが、誰にも知られぬままあちこちに仕掛けられていた。


「それにしても、誰ダヨ?」

 手を動かしながら、さっきからずうっと疑問に思っていたことをトロロが口に出した。

 トロロが自分の手足となって攻撃する「ゾンビ」に選んだコンピューターには、すでにバックドアが設置されていた。

誰かが先に侵入した証拠だ。

先に侵入した誰かが、次の侵入をたやすくする為に作った「裏口」を通って、トロロは大した苦労もせずコンピューターに侵入し、全ての機能を利用する事が可能になったのだ。

誰? ボクの行く先にいるのは?

ここも、あそこも、そこも。

まるで、ボクの思考を先読みされてるみたいだヨ……。

自分の前を行く誰かに、トロロが強い興味を持つ。

それはまるで、闇にぽつりぽつりと浮かぶ光。

まるで宝捜しのように、ドキドキしながらその誰かの痕跡を辿る。

トロロを導くように、こちらに一つ、あちらに一つ。その光を繋いでいくと、一つの道ができる。

その道を駆け、先にいる誰かを、何かを追いかける。

その先に何があるのか、誰がいるのか、トロロはとても知りたいと思った。


やがて、忙しなく動いていた手の動きが鈍り、時々止まってははっとしたように動くのを繰り返す。

もう、眠くなってきちゃったヨ……。

トロロが小さくあくびをして、眠い目を擦りながらPCの電源を落とす。ちらっとディスプレイの片隅に表示される時間を見ると、十四日の十一時を回る所だった。


眠りにつく前に、トロロを導くように先を行く誰かの事をまた考えた。


芸術家が出来上がった作品に銘を入れるように、数々の侵入したコンピューターに残された彼の名は。


9、6、6

ナイン、シックス、シックス。

ううん、ジュゥ、リョウ、リョウ。ノイン、ゼックス、ゼックス。かもネ?


ボクの前を行く、あなたはだあれ?




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