◆Queen Saver◆




「そんなにご自分を責めるのはお止めください、貴女が悪いわけではありません」

 マ・クベが傍らのキシリアにそう言った。浮かぬ顔のキシリアが曖昧に頷く。だが、そう言ってもらっても、心は浮かない。

「組織では意見の食い違いも良くある事ですよ」

 マ・クベがいくら正しい事を本気で言っても、キシリアには気休めにしか聞こえない。誰しも、そういう時があるものだ。こればかりは一人で何とかするしかない。

「そう、だな」

そう言って、ふうと大きなため息をついた。妥協してしまえば楽なのに、プライドを守り抜くキシリアをマ・クベは美しいと思う。

この部屋を出てしまえば、また彼女は虚勢を張らなくてはならないのだ。弱みを見せる事が出来ない過酷な環境の中で、自分がそばに居る時だけほんの少し羽を休めて欲しい。

マ・クベの気持ちと、自分の言葉とは裏腹に、キシリアはちっとも「そう」だとは思っていない。その証拠にぐっと唇を噛み締めた。

「ああ、お止めなさい。キシリア様の綺麗な唇に傷が付く」

 マ・クベがキシリアの顎に手をかけて唇を噛み締めるのを止めさせた。

浮かぬ心が、「綺麗な」とマ・クベの囁いた言葉に不覚にもどきっとした。キシリアが素直に従うと、マ・クベが満足そうに頷いた。

「貴女は間違ってないのだから、何を悔やむ事があるのです?」

 マ・クベの低い声がキシリアの心に少しだけ届く。貴女は間違ってないと言われて、心が少し軽くなった。ずっとそう言って欲しかったのだと気が付く。

「誰が貴女を理解できなくても、キシリア様には私が居るではありませんか」

 マ・クベがそう言うと、返事の代わりにキシリアが少しマ・クベの肩にもたれ、体重を預けた。肩の辺りに感じるキシリアの体温と重さが心地よい。

「少しはお心が晴れましたか?」

 口元にかすかな笑みを浮かべ、マ・クベが小さく囁いた。キシリアも小さく頷く。そのかすかな動きが触れた所から伝わってきた。

「ならばどうぞ、ご命令ください。命に代えても果たしてみせます」

 冗談めかして、広げた手をすっと優雅な動きで胸の前へと持っていき、まるで女王にするかのように礼をし、深々と頭を下げた。

「馬鹿」

 マ・クベの仰々しい態度に、キシリアが初めて笑みをもらした。遠まわしに自分を元気付けようとするマ・クベの気持ちが嬉しい。

「何時ものように胸を張ってお行きなさい」

 笑みの戻ったキシリアに、マ・クベが優しくそう言った。

「ん」

 なんだか満たされた気持ちで目を伏せ、唇を笑みの形にしながら、キシリアが頷いた。

「気が晴れたら、食事にお誘いしたいのですが、よろしいですか?」

 マ・クベの言葉にキシリアが顔を上げると、マ・クベがキシリアの目の中を覗き込む。

「今日は優しいな」

 本当にキシリアが元気を取り戻したのかを探るその視線に、照れくさくてキシリアが視線を外し、苦笑した。

「私の大事なキシリア様が浮かぬ顔だと私も辛いので」

 きざな言葉をしれっと口にし、済ました顔で何事も無かったような顔をしている。

「お前、それはおせっかいなのか、恋の告白なのか?」

 マ・クベの大胆な言葉に少し目を丸くすると、くすくす笑いながらそう問い掛けた。

「都合いいように取って頂いてかまいませんよ」

 またそっと体重を預けてくるキシリアに、マ・クベが横顔だけで笑った。


                                               ENDE


四十雀さんからわりと強引にイラスト貰いました。ありがとうございます。
ラブですよね? ラブですよね? ラブですよね?(ラブ三唱)
なんか些細な仕草とか閣下の表情とかマの目線とかから
愛がじわじわとにじみ出ております。
四十雀さんのサイトは、リンクからいけます。




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