注:これは、オリジンではマ・クベが中将になるらしい(?)という噂を聞いたミクロタカナの「じゃあマ・クベが月でキシリア様がオデッサって感じね」「マ・クベがキシリア様の愛人じゃなくて、キシリア様がマ・クベの愛人?」という発言を元にいんちき妄想したものです。


                     ◆オデッサ・ディ◆



「またグラナダへ呼び出しです。マ・クベ閣下は一体何を考えていらっしゃるのか!」

 度重なるマ・クベ中将のグラナダ召集の命令に、キシリア様が憤慨して私に仰った。

「はあ……」

 私は間の抜けた返事を返した。一体何を考えているのか……と仰られても、私にはマ・クベ閣下の目的は一つしかないように思える。
 判りにくい性格のマ・クベ閣下の判り易いアプローチも、肝心のキシリア様には全く通じていないらしい。
 キシリア様がグラナダへ呼び出されるたび、仕事が膨大に増えて残された我々は多大な迷惑を被るのだが、これだけキシリア様にその気がないのを見ると、怒るのを通り越して可哀想にさえ思えてくる。

「いつも一週間は帰してくださらぬ。閣下は私に仕事をさせる気がないらしいな」

 不満そうにキシリア様がそう仰った。それもそうだろう。グラナダに呼び出されても、たいした仕事はなく、簡単な報告の後はオペラ鑑賞やバレエ鑑賞に連れまわされるらしい。視察と称した美術館めぐりと、それに伴うマ・クベ閣下のレクチャーでキシリア様もずいぶん美術品にはお詳しくなられたようだ。

「閣下、お気づきではないので……」

 恐る恐る口を開く。グラナダから帰って来る度、キシリア様はマ・クベ中将から贈られたドレスだの、靴だの、プレゼントを大量に持って帰って来られる。この間マ・クベ中将が地球にいらっしゃった時に見た閣下直々の見立てのキシリア様のドレス姿はとても麗しく、マ・クベ閣下の審美眼はさすがだと感心したものだが、残念ながらここ地球ではキシリア様はめったにそれを着て下さらない。

 マ・クベ閣下が何故ドレス姿のキシリア様をあちこち連れまわすのか、キシリア様は全くお考になった事がないらしい。キシリア様にとっては、マ・クベ閣下は問題外、全く眼中に無い。という事なのだろうか? 公私混同はなはだしいマ・クベ閣下のなさりようは賛成できないが、男として同情を禁じえない。

「何にです?」

 遠まわしな私の言葉が気にいらなかったのか、キシリア様にじろりと横目で睨まれた。

最初の頃はキシリア様の方が私よりかなりお年が下にもかかわらず、キシリア様に睨まれるといちいち心臓が縮み上がるほど緊張したものだが、今ではその緊張が心地よいとさえ思えるようになってしまった。キシリア様の副官は恐ろしくて出来ないという輩がいるが、それはとんでもない間違いだ。

 確かにキシリア様は無能者にはとてつもなく手厳しい。私も何度叱られたか判らない。だが、有能とはいえない私が何とかやってこられたのは、キシリア様の叱咤があったからだ。マ・クベ閣下ほど策略に長けている訳でもなく、ジョニー・ライデン殿のようにモビルスーツを操る事も出来ない。そんな私に、「お前の愚直なまでに正直で勤勉な所を評価している」と仰っていただけた時は、一生このお方についていこうと心に誓った。

「いえ……」

 キシリア様の切れ長の瞳がお美しく、睨まれているにもかかわらず、緊張感と共に年甲斐も無く内心どきどきしながら曖昧に返事を濁した。(私も図太くなったものだ)

ふざけた事を言う幕僚には手を上げる事も厭わない気丈なキシリア様だが、この間、宿舎の寝室にゴキブリが出たと悲鳴交じりの声で呼び出された時は、そのおかわいらしさに一瞬良からぬ事を考えてしまった。夜着姿で血相変えて退治してくれと仰り、私がご要望に応えて差し上げた時の安心されたお顔を思い出すと、思わず顔がゆるむ。(この事がマ・クベ閣下に知られたら私の命は無い……)

 このようにキシリア様の副官はとても役得が多いものだが、大変だろう? と聞かれたときはそんな事はおくびにも出さずにしおらしく答える事にしている。

 キシリア様がマ・クベ閣下の副官から、地球に配属される時、新しくキシリア様の副官になった私はマ・クベ閣下に胸倉をつかまれ、凄い目で睨まれた。「くれぐれも間違いを起こすなよ」と仰ったのを見ると、マ・クベ閣下もキシリア様のこんなおかわいらしい所をご存知でいらっしゃったに違いない。独り占めしようなどとは汚な……、いや不公平だと思う。

 思わず話がそれた。

「仕方がありません……。トワニング、後を頼みます」

 しばらく不満そうに私を見ていたが、やがて諦めたようにそうキシリア様が仰った。結局マ・クベ閣下の呼び出しをお断りにならないのは、まんざらでもないということなのだろうか? とふと思ってその恐ろしい考えにぞっとした。私のキシリア様がまさかあの変人に……?

 ……こんな事を考えるのはよそう。縁起でもない。

「……お早いお帰りを期待しております」

 私はしぶしぶそう言った。何度かキシリア様の多忙を理由に、月行きを断った事があるのだが(上官からの命令ではあるが、どうせ大した用事もないのだし……)、そうするとウラガンから凄い勢いで泣きつかれた。向こうは向こうで大変らしい。

 まあ、キシリア様はいずれジオンを支配されるお方、マ・クベ中将がこんな命令を下せるのも今のうちだ。それが判っているから、マ・クベ中将もオデッサの鉱山資源の大部分をジオン本国へ送らずに、キシリア様のために隠している。鉱山に投入した人員と機材の量に比べて、送られてくる鉱山資源が少ない事に訝しがる本国の役人にも、隠ぺい工作は完璧、堂々と嘘の報告をし、生産性が悪いと嫌味を言われても何処吹く風らしい。やっている事はともかく、大した御方ではあると思う。



我々オデッサのジオン兵の間では、まことしやかに語られている噂が二つある。一つは、焦ったマ・クベ中将が、近々キシリア様に身のほど知らずにもプロポーズするのではないか、という噂だ。そんな南極条約を違反するのと同じくらい恐ろしい反則行為はしないだろうと思いたいが、なにしろマ・クベ中将は何をするか判らない危険人物なので無いとは言い切れない。ウラガンあたりが不穏な動きをしていると言う情報もある

 

もう一つは、ここオデッサを連邦が攻めてくるという噂だ。連邦の間ではその作戦をオデッサ・ディと呼んでいるらしいが、私たちの間では、そんな事よりもマ・クベ中将が無謀にもキシリア様にプロポーズする事のほうが一大事だ。水爆並みの破壊力と危険性をもたらすであろうマ・クベ中将のプロポーズが実行されるその日こそ、我々の間ではオデッサ・ディと呼ばれ、連邦が攻めて来るよりもはるかに恐れられている。


                                     ENDE

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