バレンタインのライオン
ギレンが何気なく目の前にあるチョコレートをつまみ、長い指が器用にチョコレートの包みを剥がした。
その動作を見つめるキシリアにふと気がつくと、チョコレートをキシリアの口元に持っていく。赤い唇をほんの少し開き、舌をちらりと出す。
舌の上に乗せたチョコレートをギレンの指が奥まで押し込んだ。その指をキシリアの唇がくわえ込み、軽く甘噛する。
チョコレートよりも甘い菓子を味わうようにギレンの指を舌で嬲り、ギレンが指を引くと、名残惜しそうにちゅぱ……っと音を立てて暖かい口の中から指が抜かれた。
もう一粒チョコレートをつまみ、今度はそれを自分の口の中へ入れる。
チョコレートがギレンの口の中に入ったとたん、キシリアが身動きした。身を乗り出してギレンに口付ける。
「私の妹はいつから人の口に入ったものまで奪うようになったのか?」
唇が離れると、ギレンが横目でキシリアを見ながらそう問うた。
「飢えておりますゆえ」
悪びれもせずそう言うと、くすりと笑った。挑戦的な視線がギレンを誘う。
まさか他の女からもらったチョコレートが気に食わないなどとはおくびにも出さない。
「散々食い散らかしているくせに、よく言う」
「兄上が思っているほどではございませんよ。一度最上の美味を知ってしまえば、他のものなど不味くて食べられませぬ」
ギレンが肩を竦めると、キシリアがまた身を乗り出し、正面からギレンの目をしっかりと見すえた。息も触れ合うほどギレンに近づき、舌でギレンの唇をぺろりと舐める。
「飢えている時こそ、美味しいものをお腹一杯食べたいもの……」
そう囁いてギレンの手を取り、指に口付けた。
舌を出し、猫のようにギレンの指をぺろ……と舐める。首をかしげて舌でギレンの指を愛撫するキシリアをじっと見つめ、ふっと目だけで笑った。「どうせ、お前の飢えを満たすのは私一人ではないのだろう?」
「でも、兄上が一番美味ですから」
どこか拗ねたような意地悪な言葉に、ちらとギレンを見上げ、何気なくキシリアがそう言った。
この話はこれで終りだというように、軽く指を噛む。
また視線をギレンの手に向け、ギレンのセクシーな指を口の中で感じることに専念する。「ふん。チョコレートの一つでも持ってくるかと思ったが、奪いに来るとはな。大変な妹を持ったものだ」
キシリアのしたいようにさせながら、ギレンがわざとらしくそう言った。
「私のような女が妹だったのが運のつきだと諦めて、大人しくなさいませ」
キシリアが指を解放し、ギレンの肩に手をかけて顔を覗き込んだ。
食ってしまうぞ。というように、がう! とおどけて口を開けると、そのままギレンに噛み付くようなキスをする。口付けながら、キシリアの手が手早く軍服を脱がせるのを咎めもせず、ギレンのその表情はかすかに笑ってさえいる。
まるで雌獅子に食われるのを楽しむかのように。
ENDE
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