赤木式強制開眼恋愛法








「赤木さんどこ行くんですかっ! 今来たばっかりなのに! どこにも行かせませんよ!!」

 立ち上がろうとした赤木に、ひろゆきが必死の形相で叫んだ。

 赤木がひろゆきの部屋にふらっとやってきたのはほんの数時間前で、会ったのは一ヶ月ぶりだ。

 一ヶ月も音信不通でどこ行ってたんですか! と問い詰めても、曖昧にしか答えず、赤木にとってはそれがいつもの事とはいえ、ひろゆきは不安でしょうがない。

 赤木の言葉や些細な動きにも内心カリカリしていたひろゆきが、赤木が立ち上がりかけた瞬間、反射的にそう叫んでしまったのだ。

 また出ていくのかっ!? 音信不通で今度は一ヶ月かっ!? 二ヶ月か!?

 またどれだけ俺を心配させるつもりだ!

そう思って血走った目で叫んだひろゆきを、少し驚いた顔で赤木が見て言った。

「……どこに行くって?」

噛みつかんばかりの切羽詰った表情で、必死なひろゆきに対し、すぐにひろゆきの言葉の意味を察した赤木がにやりと人の悪い笑みを浮かべた。

「ああ、なるほどね。ひろは俺がまたどこかへ出ていくと思ったわけか」

「え?」

 かみ合わない赤木の返事に、ひろゆきが頓狂な声を出す。

「いや、いるだろ、水割り作るのにマドラーが」

 マドラー!?

 混乱しながらひろゆきが赤木の手元を見ると、ウィスキーと水と氷が入ったグラスが確かにある。

グラスの中身を混ぜるものを取りに立ち上がったのだ。

 「あ……」

しまった……っ!?

 自分の勘違いに気が付き、ひろゆきが口に手を当てて青ざめた。

「でもまあ、ひろが行くなと言うのなら行かねえよ?」

 座りなおし、口元に笑みを浮かべながらそう言って赤木が指でグラスをかき混ぜた。カラン……という氷の触れ合う涼しい音がする。

「たとえここから三メートル離れた所にでも」

 そう言った後、水割りに濡れた指を行儀悪く口に入れ、味を確かめてから、赤木はグラスを口にした。からかうように、ひろゆきに軽くグラスを上げて乾杯の仕草つきだ。

 狭いひろゆきの部屋のどこに居ようが同じだ。

赤木にからかわれて、みるみるうちにひろゆきの顔が真っ赤になった。勘違いの後の七転八倒の恥ずかしさが襲ってくる。

この失態はどう頑張っても誤魔化しきれるものではない。

明らかに変だ、過剰に反応しすぎだ。

「まったく、ほんとめんどくせえな、ひろ、お前は」

 赤木が呆れたようにそう言った。だが、その声は優しい。

 ひろゆきは赤木が好きなのだ。態度ですぐ判るほどに。それでもひろゆきは赤木にはっきりと好きだと言った事は無い。いや、言えないのだ。

 せいぜい遠慮がちに赤木に一緒に居たいと言ったり、今みたいに行き過ぎた言動にのた打ち回ったり。

「ほんとですね……」

 自分の失態に、ひろゆきが自己嫌悪で唇を噛んだ。恥ずかしさに顔から火が出そうだ。

動揺して、ひろゆきは赤木の声がとても優しい事に気が付いていない。

 何やってんだ俺は……。

 唇をぐっと噛み締めても、ひろゆきは痛みを感じない。

 馬鹿みたいにイライラして、赤木さんにみっともない所見られて……。こんな有様だから赤木さんに相手にしてもらえないんだ。

 空回りする自分がなさけなくて、ますます唇を噛む。白い歯に噛み締められたひろゆきの唇が赤く染まり、朱を差したように赤くなる。

「どうせ俺が何言ったって、ひろは俺に振り回されるんだろ?」

 そう言って赤木が手を伸ばしてひろゆきの頬に触れた。ぺちぺちとからかうように頬を叩くと、ひろゆきが唇を噛むのをやめてじっと赤木を見る。

ふて腐れたような、途方にくれたようなひろゆきの目。

その目にふっと赤木が誘われる。

赤木の心が動いた。

 逃がしても良かったんだぜ、俺は。

 赤木がそう思ってひろゆきの顔をまじまじと見ると、ひろゆきは無防備な目で赤木を見返す。ひろゆきの素直で健康な心が、まっすぐに好意を赤木に向けている。

 ひろゆきが可愛かったから、逃がしてもいいと思っていた。

 でも、気が変わった。

 お前がそんな顔するから悪い。

 そう思った瞬間、赤木の気分が、勝負する時のそれに変わる。

「馬鹿だな、ひろ」

 赤木の手はそのままひろゆきの顎に手をかけ、くいとひろゆきの顔を上向かせた。親指でついと赤くなった唇をなぞる。ぞくっとする感触に、ひろゆきが少し目を細めた。

「俺は、そういうおまえのめんどくさい所、嫌いじゃないぜ。むしろ、な」

 赤木の目がひろゆきを捉える。ひろゆきは魅入られたように赤木から目が離せない。

「ククッ、好きだな」

「え?」

 笑ってそう言った赤木の言葉にひろゆきの目が丸くなる。赤木の言葉にひろゆきの鼓動が早くなる。赤木にとっては何の気なしに言ったどうでもいい言葉でも、赤木を好きなひろゆきにとっては重大なのだ。

 赤木さんが言ってるのは、俺が思ってる好きとは違うぞ、勘違いしちゃ駄目だっ……!

 必死に自分にそう言い聞かせ、駄目だ駄目だと思っても、嬉しくてドキドキしてしまう。

「なんだかんだ言って結局俺の後付いてくるお前がかわいい」

 今度は違う意味で赤くなってるひろゆきを楽しそうに見て、赤木がまた口を開いた。

「かわいいって、赤木さん、からかわないで下さいよ……」

 照れ隠しにそう言って、自分の顎にかかる赤木の手をやんわりと解いた。なんとなく目が合わせられなくて目を伏せる。

 赤木さん、俺が赤木さんの事好きだと知っていて言うんだからな……。

 からかうの、ほんとやめてほしいよ。

 赤木が自分をからかうのが、相手にされてない証のようで、ほんの少し寂しく感じる。自分の力不足のせいと判っているが、拗ねたような気分になった。

「痛っ!」

「俺がかわいいって言ったらかわいいんだよ」

 赤木の声と共に、急に後ろ髪を掴まれ、ひろゆきは顔を上向けさせられた。先ほど避けてしまった赤木の顔が嫌でも目に入る。

 赤木さん、俺が赤木さんの目から逃げたのが気に入らないんだ。

ひろゆきがそう悟った時にはもう遅い。赤木の目は冷たくひろゆきを見下ろし、赤木を怒らせてしまった後悔がどっと押し寄せる。

しまった……。

赤木に憧れているひろゆきにとっては、赤木に失望されたり怒られる事が何よりも恐ろしい。度重なる失敗に、本当に自分が嫌になる。

また唇を噛みかけた瞬間。 

「捨てちまえよ」

 赤木がぼそっとそう呟いた。

「え?」

「余計なもん、みんな、捨てちまえ」

 そう言って、赤木はひろゆきに軽く触れるだけのキスをした。

 瞬きするほどの間の短いキスだったが、ひろゆきの唇に、はっきりと赤木の唇の感触が残る。

 信じられない出来事に、目を見開いて固まっているひろゆきを見て、ククッと赤木が笑い、ひろゆきから手を離して自由にした。もう逃げないと確信したのか、もう捉えたと確信したのか。

「俺なんかについてくるひろも、相当キてるんだよ。ひろ、いい加減気づけ。おまえはまともなんかじゃない。薄々は気がついてるんだろ?」

 赤木にされた事で呆然としているひろゆきをフォローもせずに放り出し、何事も無かったかのようにグラスを傾け、赤木はそう言った。

「ぼ、僕はまともですよ!」

 まだキスのショックから抜けきれていないひろゆきは真っ赤になって反論する。

生まれてきてからこの方、ずーっと自分はまともな方の住民だと信じているのだ。常識はずれで破天荒な事ばかりしている天や赤木、あっち側の人とは違う……と。

 ひろゆきは、天や赤木の非常識を嗜めこそすれ、自分がそこに混ざる事など絶対にないと考えていた。

 無意識のうちに、それが枷になっていたのだ。

 赤木さんと俺は違う。

 赤木さんと俺の間には、乗り越えられない何かがある。

 ひろゆきの心の底にあるその感情と引け目が、赤木への想いを伝えられない一番の障害となっている。

 赤木は、ひろゆき自身も気がついてないそれを知っていてそう言ったのだ。

「俺に行かせませんよって涙目で言ったのは誰だ? あ〜ん?」

「そ、それはちょっと色々混乱してたんで!」

 ひろゆきはまだ自分の心を正直に言おうとしない。ああだこうだと言い訳している。頭がおかしくなりそうなほど惹かれてるくせに、まだ余計なものを両手いっぱい持っているから、必死に赤木にしがみつく事が出来ない。

「ならお前、後戻りできるのか?」

 からかうように赤木がそう言うと、ひろゆきの顔色が変った。

「できません」

 数瞬悩む様子を見せたが、敵のように赤木を睨みつけながら、きっぱりとそう言う。

 やっと素直になってきたじゃねえか。と赤木の口元がひろゆきに判らない程度にほんの少し綻んだ。

 だが、まだまだだな。

 俺にそう聞かれたら、即答するくらいにはなってもらわないと。

 ひろゆきに対しては、俺はずいぶん優しいな。と赤木が思って苦笑した。

「もう赤木さんを知ってしまったんだから、赤木さんの居ない生活なんかに戻れる訳が無いですよ! 赤木さんが来ないって悶々としても、今何してるんだってハラハラしても、もう僕は貴方無しの生活には戻れません!」

 ひろゆきがやけになったかのようにそう叫んだ。

赤木の手が、ひろゆきの襟元に伸びる。

ひろゆきの視界が急に揺れた。ぐいっと襟首を掴まれて、気がつけば目の前に不敵な笑みを浮かべる赤木の顔がある。

「なら、地獄の果てまでついて来いよ、ひろ」

 ひろゆきが何か反応する前に、赤木は噛み付くようなキスをした。

 赤木の舌が怯えているひろゆきの舌を捉え、互いを絡ませる。赤木の舌先が遠慮会釈無くひろゆきの中へ侵入し、身も心も弄ぶ。

「はっ……、んん……」

 唇を甘噛され、舌を吸い上げる。赤木に口腔を蹂躙され、ひろゆきが小さな喘ぎ声を上げた。いつも飄々として冷静なイメージのあった赤木から、これほど情熱的なキスをされるなんて想像もしていなかった。

ひろゆきの手が、赤木の腕をぎゅっと握る。何かを掴んでないと、ばらばらになってしまいそうだ。

甘い痺れが全身に広がっていく。

ぴちゃ……と粘着質な水音が部屋に響き、ずいぶん長くひろゆきは唇を塞がれていた。少し唇を離したかと思うと、また口付ける。浅く、深く、何度も何度も口付けられる。

「赤木さん、も、許して……、下さい」

 涙目になってうっすら目を開け、ひろゆきがそう赤木に懇願した。ひろゆきにはこれ以赤木のキスに耐えられない。どうにかなってしまいそうだ。

「だらしねえな」

 最後に、一番最初にしたキスのように軽くひろゆきの唇に口付け、赤木はようやくひろゆきを許した。

 赤木の手の支えを失い、ぐらっと倒れそうにった自分の体を慌てて持ち直す。腰が抜けかけている。

「僕は、僕はまともだと思ってたのにっ!? 僕は天さんや赤木さんと違って常識人だと思ってたのにっ!」

 赤木のくれた甘い痺れでまともに座っていられず、ひろゆきがそう言ってがっくりとうなだれた。

 体中が甘く痺れている。知ってはいけないものを知ってしまったと本能が怯えている。

 ひろゆきの中で、何かが崩れる音が確かにした。赤木のキス一つで自分が変えられてしまったのが判る。

 本当に、赤木のキスで嫌と言うほど思い知らされてしまったのだ。

 自分がどれだけ赤木のことを好きか、赤木がどれだけ自分に与えてくれるのか。

憧れの延長みたいな恋心が、本当の赤木を知ってしまった。生身の赤木の生々しい快感と欲望を教えられてしまったのだ。

 でも、俺はもっと知りたい。

 底なしの沼に沈んでいくような不安と恐怖と、まだ見ぬものに対する期待とがない交ぜになってひろゆきを翻弄する。

「覗きてえんだろ? 地獄の淵を。見せてやるよ」

 呆然としているひろゆきに向かって赤木がそう言って笑った。

 赤木の言った、地獄の淵という言葉に引っかかる。

 何の事だと数瞬考え、自分の中の答えにぶち当たる。

 そうだ、俺は赤木さんの破滅の匂いに惹かれている。

俺は「まとも」なんかじゃない。火に飛び込む蛾だ。赤木さんの熱に焼かれたいと思っている。

そう気がついたとき、またひろゆきは愕然とした。

 地獄の淵で俺は何を見るんだろう……?

 上手く思考がまとまらない頭で、ぼんやりとそう思った。

 赤木が教えてくれるもの。それは綺麗で楽しい事ばかりではないだろう。生々しい欲望も、心を焦がすような不安も嫉妬も、いろんなものを赤木はくれるだろう。しかも、他の誰とでも味わえない、ひりひりするような強烈なやつを。

 今でさえこんな苦しくてドキドキさせられているんだから……。この先どうなっちゃうんだろ?

 きっと前の俺なら逃げてた。

 でも、今の俺は赤木さんを知ってしまった……っ!

 頭を抱えて転げいまわりたい気分だった。

 ひろゆきは、自分の選択の余地がもう無い事に気がついた。もう答えは一つしかない。赤木に変えられた。ぐずぐすしているうちに赤木に決められてしまったのだ。

 赤木さんを手に入れられるのなら何を捨ててもいい。

 未練がましくじたばたしているが、心の奥底ではそう決めている。

もうひろゆきはとっくにまともな世界から飛び降りているのだ。地獄の底で笑いながら差し伸べる赤木の手を取りに。

……むしろ今回は手を掴んで引き摺り下ろされたような気がするが。

これからの大学生活でできるかもしれない可愛い彼女の可能性を捨て、不良中年に振り回される事を選ぶなんて狂気の沙汰以外のなにものでも無い。

 でも赤木さん、俺、もう本当に後戻りできません……。

 真っ青な顔でがっくりうなだれているひろゆきを、赤木が楽しそうに見ている。自分のした事をよーく知っているのだ、この男は。青少年の明るい未来を奪ったと知った上で楽しんでいる。

「ククク、ばぁか」

 まるで子供のように楽しそうな笑みを浮かべ、赤木はそう言った。

「ひろ、お前ほんと馬鹿だな」

「どうせ馬鹿ですよっ。あー馬鹿ですよ」

 やけくそになったひろゆきがそう叫んだ。

「ちくしょー、赤木さん、好きだぁっ!」

 涙ぐみながら、ひろゆきはとうとう口にした。でも目は赤木を見ていない。言わされた敗北感に打ちひしがれながら、悔しそうに叫ぶ。

「ククク、こいつ、とうとう言いやがった!」

「えー、何度でも言いますよ。僕は赤木さんが好きだぁっ!」

 いきなり窓をがらっと開けて、煌々と輝く満月に向かってひろゆきはそう思い切り大声で叫ぶ。

さっきまでうじうじしていたのに、ちょっと構ってやっただけでこの変わりようだ。

 さすがこいつ、俺が目をつけただけあるぜ。

 そう思って、内心にやりとほくそえむ。

「おもしれえな、ひろは」

 赤木はそう言って止めもせず、ひろゆきの壊れっぷりを手を叩いて喜んでいる。

「こんな意地悪で性格も悪くて僕を苛めるのが大好きなサドの赤木さんが好きだぁっ!」

 なんだかんだ言って、赤木の目の前でこんな事を言えるのはひろゆきしかいないのだが、果たして本人は気がついているのかどうか。

 うるせえぞのろけんじゃねー! というどこかの住民の叫びを全く無視して、言いたいだけ叫び、ぴしゃっとひろゆきは窓を閉める。まさか男、しかもとんでもなく性質の悪い不良中年に向かって告白しているとは思うまい。

 興奮冷めらやらず、くるなら来やがれと好戦的に振り向いたひろゆきの腰を、がっと赤木の腕が攫った。

「え? え? え?」

 ひろゆきが戸惑っている間にずるずると部屋を引き摺られ、どさっとベッドに押し倒される。

「なら、問題ないな、ひろ」

 そう言って圧し掛かった赤木の無言の圧力に、ひろゆきの所詮メッキの強気が吹っ飛んだ。

「ちょちょちょ、ちょっと待って下さい、赤木さん。ん……っ」

 いつのまにかシャツの裾から手を入れられ、素肌を弄られている。首筋に口付ける赤木を慌ててひろゆきが押し上げた。

「そこまで言ったら、するこた一つだろ……?」

「それはまだ心の準備が!」

「〜〜〜〜〜〜っつ」

 ひろゆきの言葉に、眉間を指でつまみ、まるですっぱい物でも食べたような顔をして、しばし赤木の動きが止まった。

「めんどくせぇっ!」

 おもいっきり溜めた後、そう言ってぎろりとひろゆきを睨みつける。

「ひろ、お前最高にめんどくせぇぞ……!」

 だから処女は嫌なんだ! とでも言いたげな赤木の目線が痛い。

「僕まだ赤木さんからちゃんと好きって言ってもらってないですし」

 赤木の目に怯えながらもしっかりそう言うひろゆきに、こいつ実は結構したたかなんじゃないか……? と赤木は思った。

「……ここまでしてるんだ、判ってるだろ? ひろ」

 諭すように優しく言い、首筋に口付け、愛撫を続けようとする赤木の体が、ぐいとひろゆきの手に押し返された。

「言質を取ってからじゃないと絶対嫌です!」

 この野郎……。ふざけやがって。

 そう思って赤木は思いっきりひろゆきを睨みつけた。これまで、赤木がその目で見ると、状況が判らない馬鹿以外は慌てて赤木に従ったのだが、ひろゆきは臆せず赤木の目を見返している。

 変なところでクソ度胸の有るガキだっ……!

 そう思い、苦虫を噛み潰した顔で、赤木が沈黙する。ひろゆきは赤木を試すかのようにじっと顔を見ている。

「……………………」

 とても長く感じられる無言の時間。

「愛してるぜ……」

 沈黙の後、ぽつりと赤木が言った。

「あっほんとに言った」

 目を丸くして、ひろゆきが思わずそう口に出した。自分が言えと言ったくせに、かなりの確立で言ってくれないだろうと踏んでいたのだ。

「お前な……」

「すいません疑ってました」

 ひろゆきのセリフに、ぷちっと神域の男の中で何かが切れた。

 なら、二度と疑えないように教えてやろうじゃねえか、お前の体にたっぷりとな!

 赤木の目が、幼い頃虫を殺す時躊躇した気分を通り越した目になるが、ひろゆきは誤魔化すようにへらへらと笑った。

「いや、僕本当に今の言葉で凄く満足しました。もういいです」

 曖昧な笑顔で逃げを打つひろゆきの体を、赤木ががっちりと押さえた。

「逃がすか……」

 囁くような低い声に込められた殺気に、はっとひろゆきが赤木の顔を見た。その時、遅まきながら、赤木が凄い目をしているのに気がついたのだ。

 赤木さん、細いくせに力凄い……!

 自分が虎の尾を踏んだ事に気がつき、ひろゆきの顔が青ざめた、どう足掻いても逃げられそうに無い。ひろゆきにそのつもりは無かったのだが、赤木から逃げようと言った数々の言動は、逆に十分赤木を挑発している。逃げられると思ったほうが甘い。

「ひろ、俺にそこまで言わせておいてそれで済むとは思ってねえよな……?」

「だって、怖いんですよ〜」

 情けない声で、ひろゆきがそう言う。弄ばれるわ、いきなり押し倒されるわ、ひろゆきにとっては今日はいろいろありすぎた。相当混乱して泣きたい位だ。

「じゃ俺を抱くか?」

 さらっと言った赤木の一言に、ひろゆきが一瞬全ての状況を忘れた。

「え……?」

 い、今なんて?

 思いっきり聞き返したいひろゆきの耳に、疑いようが無いほどはっきりと赤木が言った。

「俺を抱きたいのか、ひろは」

「えっ、いや、それもちょっと怖いっていうか……!」

 聞き間違いじゃない! 本気で言ってる!

 新たな展開に、またもひろゆきがパニックに陥った。

 なんでこの人はこんな言葉をあっさりとっ……!?

 ひろゆきは、赤木という男にくらくらした。やっぱり、人種が違うに違いない。そうとしか思えない。

「俺は男を抱くのも抱かれるのも初めてだがな、まぁ、問題ない」

「そんなあっさりしてていいんですか!」

 さすが神域の男は違う……。

 一瞬感心して現実から逃げかけたが、状況はそれを許してはくれない。

「早く選べ」

 赤木が有無を言わせない声でひろゆきに決断を迫る。

「……どっちの牌も切れません!」

「じゃあ両方持て」

 ひろゆきにそう告げる赤木の声は、冷酷で有無を言わせない響きに満ちている。

 だめだっ……! 逆らえないっ……!

 赤木しげるを引き、女を切り、目指す役の名は狂気の沙汰か!?

 どん底に叩き落されたひろゆきの意識がまたどこかに飛びかけた。

 その一瞬の隙を突いて、赤木がひろゆきを襲う。両手首をがっちりとベッドに押し付けられ抵抗できない。

「本気ですか〜〜」

 あれよあれよというまにひろゆきの服が脱がされ、素肌がさらされる。

 赤木の手を嫌がるように身をよじっていたひろゆきの体が、掠めるように触れられてびくっと痙攣した。

「あ、あ……」

「大人しくしてりゃ悪い様にはしねえよ」

 戸惑いと快感の混じった声を出すひろゆきの耳元で低く赤木がそう囁き、クククと小さく笑う。

赤木がひろゆきの体を巧みに探ると、ひろゆきの口から押し殺しきれぬ声が小さくあがり、やがてひろゆきの体が嫌がるのを止め、大人しくなっていく。


ひろゆきの泣きが入った声が、甘い喘ぎ声に変わるのにそう時間はかからなかった。



ENDE



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