恋のBreak through
「ひろ、泣いてくれねえ?」
ラーメン屋の土地建物の権利をかけた麻雀勝負の後、天は半死の憂き目に遭ったが、持ち前の悪運で辛うじて命を取り留めていた。
ひろゆきが病院に見舞いに来た時には、すでに天はぴんぴんしていて、相変わらず嫁さんと減らず口を叩くほどの回復を見せていたのだ。
全く、この人には呆れるよ。
心配が肩透かしに終って、ひろゆきはほっと一安心した。
しばらく二人で雑談をし、会話が途切れた時に唐突に天がそう言ったのだ。
「……嫌ですよ。どうしてですか?」
突然、「泣け」などと言われ、意味が判らずにひろゆきは顔を顰めた。天が訳判らない事を言うのはいつもの事だが、そういうことを言う時は大抵ひろゆきにとばっちりが来る。
「いや、お前の泣いた顔、好きだから」
「はぁ??」
ベッドの上で、天はしごく真面目にそう言った。白い包帯が痛々しいが、本人はいたって元気だ。幸い後頭部を強打したのもでっかいこぶで済み、天の嫁さんが言うには、その回復力には医者も呆れているらしい。
やぱり頭に何か後遺症が残ってそんなこと言ったんだろうか? と一瞬疑ったが、理由がなんだろうと訳がわからない天の言葉に、ひろゆきはますます混乱した。
「救急車の中でさ、お前泣いてくれただろ、俺のために」
怪我人の癖に煙草の煙を吐き出し、天は人が悪そうににやりと笑ってひろゆきにそう言った。
「……あんた、あの時意識あったんですか? ほんっとにタフですね」
泣いていたのを見られていたか!? と恥ずかしくてかっと頬が熱くなる。色の白いひろゆきの頬がさっと赤く染まった。そのくせ、口調だけは嫌みったらしく強気だ。
「涙、綺麗だなーって」
余裕でからかってるように見せて、ひろゆきにそう言っている天は実は内心余裕があるどころではない。
ちくしょう、こいつ……。
まるで少女のように頬を赤らめて恥らっているくせに、男の子の意地を張るひろゆきがかわいくて、抱きしめて滅茶苦茶にしてやりたい衝動に駆られる。だがそう思っているなどおくびにも出さず、天は呑気そうにそう言った。
今下手に動いて、獲物に逃げられる訳にはいかない。慎重に、慎重に、用心深いひろゆきに悟られぬよう、一撃で仕留められる距離まで近づくのだ。
「なに馬鹿言ってるんですか、死にかけた人間が!」
天があまりふざけた事を言うものだから、だんだんひろゆきの恥じらいと照れが怒りに変ってきたようだ。救急車の中で、ひろゆきは本気で天を心配していたのだ。それを茶化すような事を言われれば、怒るのは当然だ。
「いや、死にかけたから思ったわけよ、このまま死ぬの未練が残るなー、ひろ抱きてえなーってな」
ふざけているとしか思えないセリフを吐く天をひろゆきがじっと睨みつけている。
たぶんひろゆきは気がついてない。何か言いたそうなあの独特の上目使いをされると、ひろゆきには妙な色気がある。その表情で見られた方はもっと構いたくなってしまうのだ。
「目にいっぱい涙溜めてじっと俺のこと見てるし、かと思うと見てるこっちが胸が痛くなるような顔ではらはらと涙流しててさ、あの時のお前は可憐だった!」
冗談めかして大げさにそう天が言うと、ひろゆきは耳まで真っ赤になった。
これは脈があるかもしれないぜ?
言い過ぎて怒らせるかな? と思っていた天が、ひろゆきの良い反応に内心ほくそえむ。
「な、何言ってるんですか天さん!? からかうのやめてください」
ひろゆきが顔を真っ赤にしてムキになってそう言う。いつものひろゆきなら、冷たい目で「頭おかしいんじゃないですか?」位なら言うはずなのにだ。
普段嫌味なほど冷静なくせに、弱点かき回すとすぐぼろが出るんだよな、ひろは。
俺にそう言われて動揺しているって事は……。
やっぱり、いける?
目の前のひろゆきを慎重に観察しながら、天は口を開く。
「いや、冗談じゃないぜ?」
あまりふざけていては、性質の悪い冗談で済まされる。それを避けるため、天は急に真面目な顔になってひろゆきにそう言った。
「じゃあなお悪いです!」
怒ったように、ぷいとそっぽを向いてひろゆきがそう言った。案の定からかわれたと思ってふくれっ面をしている。
「今のおまえの顔もさ、好きだな」
自分の感情を正直に表情に出す今のひろゆきを微笑ましく思い、天が優しくそう言った。
いつもそうやって素直でいたらいいのに。と思う。
自分の内心を隠し、溜め込む事の多いひろゆきが、自分の感情に素直に泣いたり笑ったり、悔しがったりしているところを見るのが好きだ。それが見たくて、ついひろゆきを突っついてしまう。
天の言葉に、今度は何を言うかと、きっときつい目でひろゆきが天を見あげる。
「お前の顔、綺麗に整っているだろ。整った顔ってさあ、冷たいんだよ。余計な表情が無いっていうか何と言うか」
予想外の言葉に思わずひろゆきが天を見ると、先ほどまでのふざけた態度ではなく、口元に笑みを浮かべて優しい目をしている。その目のあまりの優しさに、どきんとひろゆきの胸が脈打った。
救急車の中で知った天の大きさと優しさが、自分を包むのを感じた。
男に「抱きたい」と言われるなんて即拒絶するに決まっている。だが、天にそう言われてひろゆきはあんまり嫌じゃないのだ。天のふざけた口調のせいで現実味が無いというのもあるが、むしろ、形の無い何かが行き場をつけたような気さえする。
俺、天さんが好き……、なのかな?
「…………」
「でもな、ちょっと突っつくとすぐ崩れるの、お前の顔」
複雑な思いにかられ、急に大人しくなったひろゆきの前で、くすっと笑って天はそう言った。
言いながら手を伸ばし、ひろゆきの頬を包み込むように触れる。天の手の大きさと暖かさが地よい。
「それが面白くてねー」
天がそう言って人の悪い笑みでひろゆきを見てにやっと笑う。適度にふざけた態度と真面目さで、ひろゆきをじわじわ追い詰めていく。真面目すぎれば逃げられる、ふざけすぎれば怒られる。腕の見せ所だ。
「面白いでやられてるこっちはたまりませんよ!!」
天の手を邪険に払いのけ、いつもの呆れたような怒ったような調子で、ひろゆきは天にそう言った。
やっぱり天さんは僕をからかってるだけだ。
天に惹かれそうになる自分を必死で押し止めながら、ひろゆきは自分にそう言い聞かせる。
「お前几帳面で頭いいだろ。そういう奴はさ、危ないの。自分が何でもできるもんだから、出来ない奴にイライラして、挙句の果てにはどんどん周りを見下して嫌な奴になっちまう。それを防ぐにはねー、もっと怒ったり笑ったりした方がいいの、自分にもコントロールできない事があるって、出来ない奴の気持ち知ったほうがいい」
わざと軽い感じで言っているが、天がひろゆきの事を心配しているのが判る。おせっかいだよ! と強がってみるが、天の優しさに、またひろゆきが惹かれる。
天、ふざけてるのか本気なのか判らないよっ!
それが天の策略だとも知らず、イライラさせられながらひろゆきがそう思った。振り回されてイライラさせられていること自体、自分に意識を向けさせたいという天の思う壺なのだが、ひろゆきはそれに気がつかない。
天が訳の判らない変な事言うからむかつくんだ。
心をかき乱され、ひろゆきが心の中で天に文句を言う。
なら、思いっきり優しくされたら僕はどうするだろう?
天の大きな胸に顔を埋め、抱きしめられたら気持ちいいだろうな……とふと思って、焦ってその思いを消そうとした。そう思うのはあきらかに男として変だ。
ひろゆきは、しょうがない人だと天を叱り飛ばしてはいるが、本当は、天の方がひろゆきを甘やかしている。確かに天は非常識な人間だが、ひろゆきの神経を逆なでするようでいて、ひろゆきのストレスを発散させてやっている節があるのだ。
なんだかんだ言って、守られているのは僕だ。
神経質な僕を、天が守ってくれている。
それに気がついたのは救急車の中でだ。それまでは、天の優しさに気が付かずに、ただ天に突っかかっていた。まるで、お釈迦様の手の平の中で得意になっていた孫悟空のように。
怒鳴られて、殴られて、自分を傷つけて他人を守る天。へらへらしている中に隠された天の強さや優しさ。表に出さないそれに気がついたとき、ひろゆきは微妙に天を意識するようになった。
「ま、手っ取り早いのは恋することかな?」
「で、僕に天さんに恋をしろって言うんですか、ありがた迷惑です!!」
でも、このまま天のペースにはまるのは真っ平ご免だ。虚勢を張ってひろゆきがそう言い返した。
「え? だってひろゆき俺にときめいただろ? 救急車の中で」
ひろゆきの虚勢に天は気がついている。その上で、天はひろゆきを追い詰めるのを楽しんでいる。
天の気持ちはもうとっくに決まっているのだ。まだじたばたしているひろゆきが落ちるのをじっくり楽しむ余裕がある。
やろうと思えば、天はもっと簡単にひろゆきを抱けるのだ。強引に体に心を引き摺らせる形で落とす事もできる。だが、それをしないのは、もっとハラハラして、ハラハラさせて、有頂天になって、どん底になって、もっとじっくり楽しみたい……と思っているからで。それだけ大事にしているのだ。
救急車の中で感じたのは、予感。それも、ひりひりするような強い恋の予感だ。
俺、死ぬのかな……? と思い、自分がどうなっているのかも判らない中で、ひろゆきが泣いているのだけがなぜかはっきりと判った。朦朧とした意識の中で、天は心の中で必死にひろゆきを慰めていたのだ。
泣くなよ、ひろ、頼むから。
体が動けば、きっとそう言って、ひろゆきの顔を引き寄せて、
キスしてたなあ……。
あの時の事をぼんやりと思い出している天の耳に、悲鳴のようなひろゆきの声が入る。
「と、ときめいてません!!」
図星をつかれて、ひろゆきはますます狼狽している。
やっぱ好きだな、こいつの事。
ひろゆきを見てそう思い、天が口を開いた。
「じゃ、今からときめいてくれない?」
「無理言うなっ!」
漫才のようなやりとりを交わし、ムキになって言い返しているひろゆきの顔が真っ赤だ。ひろゆきには余裕の表情の天が憎たらしい。
「でも……」
何とか一矢報いたい。その意地でごくりと唾を飲み込み、ひろゆきが思いつめた表情でそう口に出した。
「正直言うと、ほんの少し、ほんの少しですよ、天さん見て、胸の辺りが、きゅん……って」
「ほらみろ!」
「でもそれは恋じゃない!!」
まだ言い張るひろゆきに、天がにやりと笑った。
俺はあの時お前にかなりときめいたんだぜ?
お前もそうなんだろ? 誤魔化したって無駄だ。
獲物の喉笛に噛み付く瞬間が来た。いつだってこの瞬間はぞくぞくする。特に今回は上物だ。
「試してみようか? ひろ」
煙草を雀荘から盗んできた安っぽい灰皿にぎゅっと押し付けて消し、天がひろゆきの目を見て挑発するように笑った。
「キスしてみろよ、俺に」
唐突にそんな事を言い出した天に、ひろゆきの目が丸くなる。
「ええっ!?」
「キスできたらやっぱ俺の事好きって事じゃないの? 自分の気持ちはっきりしていいんじゃねえ?」
子供のような理屈だが、以外にもひろゆきは腕を組んで考え出した。天のせいで、相当自分のペースが乱されているらしい。
されたらラッキー、じゃなくても、馬鹿だアホだといつものように罵られるだけだと思った。
だが、ひろゆきは思いつめた顔をして、決心したかのように一瞬天を睨む。
次の瞬間、そっと天の顔に唇を近づけたのだ。
え?
マジで……?
今度は天が度肝を抜かれる番だった。
ひろゆきの緊張した顔が近づいてくる。まだ幼さを残した顔だ。あと数年もすれば、その表情も男らしくなるだろうが、今はまだ線が細い。
彫刻刀で削ったような、くっきりとした二重瞼が驚くほど近くにある。顔が小さい、髪の毛がさらさらしている。女みたいな細い眉、通った鼻筋、がちがちに緊張した黒目がちの大きな瞳。かすかに開いた唇。
ひろゆきの瞼がすっと閉じられた瞬間、天の体に衝撃が走った。
ああっ、やべっ、こりゃマジでやばいっ……!?
できる。俺、ひろゆきマジで抱けちゃう……!?
天の動揺をよそに、ひろゆきの唇が、天の唇に重なる。
「ん……」
唇が触れた瞬間、感極まったように漏れたひろゆきの声に火をつけられる。
くそ、柔らかい、こいつの唇。
そう思って天が我慢できずにひろゆきの唇を貪る。待っていたかのようにひろゆきも天に応える。
「あ……、ん……。あふぅ……。ん……」
鼻にかかったようなひろゆきの甘い声が病室に響く。
体がびりびりする。
気持ちよくて、体が溶けそうだ。
どれ位キスしていたのか、天がひろゆきの下唇を甘く噛み、名残押しそうに二人の唇が離れた。
離れたくない。もっと一緒にいたい。もっと深くまで繋がりたい。
口に出さずとも、お互いがそう思っているのが判る。
ひろゆきが閉じていた目をうっすら開けた。魔法のとけたシンデレラのように、ぼおっとしている。
「……キスしたね、お前」
「……キスしましたね」
なんとなくキスの甘い余韻が残り、いけない事をしてしまった……という空気が二人の間に漂う。思いがけない事に、なんと言って良いのか判らず、二人で間抜けなやり取りをする。
天、キス、上手い……。
まだぼーっとしながら、ひろゆきがそう心の中で呟いた。天のキスは、その大雑把そうなイメージと反対にかなり繊細だったのだ。頬に触れられた手の暖かさと、キスの快感がひろゆきの体に刻まれる。
天に触れられると心地いい、天のキスは気持ちがいいということを、ひろゆきの体は知ってしまった。
まだ唇がじんじんする……。
そう無意識のうちにそっと唇に指で触れるひろゆきはまだ茫然自失の状態だ。
だが、ショックを受けたのはひろゆきだけではない。
天もだ。
わざと長く唇を塞ぎ、苦しくなったひろゆきが「あ……」とあげた声や、切なげにかすかに開き、また閉じた表情が天にまとわりつく。
普段冷静で憎たらしいだけに、反則だぜあの顔は。
そう思い、自分を保つ為に吸いたくも無い煙草に火をつけ、煙を吸い込んだ。
危うく病室で押し倒す所だったぜ……。
紫煙を吐き出しながら、よく持ったなと内心冷や汗をかいた。
こういう事に慣れているつもりだった天が、思わず我を忘れそうになってしまったのだ。
気持ち良かったぞ、かなり。
俺がそうだって事は、多分、ひろも……。
先ほどのキスを思い出して、天がそう思った。
今のキスで、ひろゆきへの欲にはっきり気がついてしまった。
馬鹿言わないで下さいやっぱ天さんとキスなんて出来ませんよ……と冗談で終るどころか、かなりマジになってしまった。
いやー、でも、まーいいかー。
あっさりと葛藤に決着をつけ、改めてひろゆきに目線を移す。
「あ、悩んでる」
視線の先に、自分以上に悲惨な顔で頭を抱えているひろゆきに気がつき、天が思わずそう呟いた。
「嘘だっ、こんなの嘘だっ」
天の見ている中、自分が信じられないという顔で、真っ青になったひろゆきが呟いている。
おおらかな天と違って、ひろゆきの受けたショックは相当なものだろう。
「嘘じゃないよ。お前俺にキスしたって事はさー、つまりそれがお前の本心なんだよ」
ひろゆきの気持ちを確かめるつもりが、自分の欲望を確かめてしまったものの、あっさりそれを受け入れた天が呑気にそう言った。
「ぼ、僕、キスしながら、このまま天さんに抱いて欲しいって思った」
頭をかきむしった為、ぼっさぼさの髪をして、恨みの篭った目でひろゆきが天を見てそう言った。
ひろめ、結構大胆な事言う奴……。キれたら怖いかもなぁ……。
天が、壮絶なひろゆきの姿を見てごくりと唾を飲み込む。
「うッ……!? キたね今のセリフ。お前、それってやりたくてもできないこの体の俺に対する嫌がらせか?」
この野郎、ただでさえ溜まっているってのに、挑発しやがって。
抱いてくれって言っているのに出来ないこの体が憎い!
ひろゆきの怨念の篭った目に多少びびりながら、ひろゆきの大胆発言に天の心が乱される。
「当たり前でしょ」
天の言葉に、冷たくひろゆきが答えた。まるで天を苛めて恨みを晴らしているような態度だ。
「こ、この野郎……」
いくら自分の気持ちに混乱しているからって俺に八つ当たりするなっつーの!
そうかそうかそういうつもりか。
もう迷いはねえ。情けもかけねえ。
もう許さんと決意した天を、ひろゆきはひろゆきの思惑で冷たく見ている。
「体元通りになったら絶対やってやるからな、ひろ」
「嫌です」
くそっ、この野郎イライラムラムラさせやがってっ!
ぷいっと顔を横に向け、つんと拒絶するひろゆきに、ますます天の怒りのボルテージが上がる。
「嫌って、お前さっき俺に抱いてって言っただろ!?」
「あれはその場の雰囲気に流されただけ、一時の気の迷いです。次その気になるのか判らないでしょ」
何かが壊れて吹っ切れたのか、内心はともかく、表向きはすっかりいつもの冷静なひろゆきに戻ってしまっている。
「というか、なりません」
天の馬鹿行為を見ているときのような冷たい目をして、きっぱりとひろゆきは言い切った。本当はそう自分に言い聞かせているのだが。
憎たらしいやつぅぅぅぅ〜〜〜〜。
絶対泣かしてやるからな。
天の心の閻魔帳にひろゆきへの恨みがしっかり記入された。
「ひろお前可愛くないねー」
「可愛くないで結構! もう帰ります」
もう一秒でもここに居たくないといった風情で、ひろゆきが立ち上がった。本当に逃げたいのは俺を好きだっていう自分の心からだろ! と言いたいが、そんな事を言ったら本当に大げんかになるので賢明にも天は口に出すのをぐっと堪えた。
「頭の中身もお大事に!」
ひろゆきは、そう捨て台詞と吐き、振り返りもせずに出ていこうとする。
「ひろー、退院したらやろうなー」
「やりません!」
からかい口調の天の声に、ひろゆきの怒気の篭った返事が返された。足音高く出ていったひろゆきの後姿を見ながら、ぶははっと天が笑った。
「いやー、ひろからかうのは楽しいねー」
呑気に独り言を言いながら、目線をシーツの上に移す。
「って」
そこには、白いシーツを押し上げるモノが。
う〜ん、俺男相手に勃ってるよ……。
「これどうすんだよ、オイ……」
自分の節操の無さと、死にかけたというのに元気な己の体に感動さえ覚える。キスの後ろくに天を見ずに出ていったひろゆきはこれに気付いていまい。これを見られなかっただけ幸運だというところだろうか。
情けない呟きが、一人になった天の病室に寂しく響いた。
ENDE
20040904 UP
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