DATE−JUST



 



 原田が待ち合わせに指定した場所で、ちょっとした騒ぎが起きていた。

 外国人男性三人組に絡まれたサラリーマン風の男が、必死で相手を振りほどこうとしている。

 外国人は、サラリーマン風のスーツ姿の男を囲み、口々に外国語で何かを言ってはべたべたと体に触れていた。スーツ姿の男は、体を硬くし、簡単な英語で相手を拒否しているのだが、外人達はニヤニヤしているだけで全く取り合わない。

 もしや……と思っていたが、近づいてみると案の定そうだった。

「ちょっ、こいつら何なんだよ!」

 日本語でイライラしたようにそう言った後、強い口調で嫌がっていることを英語で伝えているのはひろゆきだった。

何してんねん……と原田が近づきながら様子を見ていると、三人組みはまるでひろゆきの抗議を無視して、からかうようにひろゆきの尻を触っては、飛び上がっているのを喜んでいる。挙句、ひろゆきの腕を掴み、道路そばに駐車しているワンボックスカーへ連れ込もうとした。

 嫌だと言葉でも態度でも強く抵抗するが、ガタイのいい外国人三人がかりで抑えられては、体格で著しく劣るひろゆきに勝ち目は無い。

「嫌だって言ってるだろ! 判らないのか!」

 男たちの腕をどうにか振り解き、苛立たしげにそう叫んだひろゆきの背後から声がかけられた。

「お前の言ってる意味が判らんのと違うやろ、これは」

 聴きなれた声に、ひろゆきが慌てて振り返る。そこには、ここで待ち合わせる予定の原田が立っていた。

「あ、原田さん」

 助かった……とホッと表情がゆるんだひろゆきと反対に、原田は不機嫌そうな無表情のままだ。

「もっと別のやりかたで判らせた方がええ」

「え?」

 原田は、不思議そうな顔のひろゆきには答えず、無言で手首に光る銀色の時計を外した。

ひろゆきにちらっと見えたのは、アイスブルーの文字盤に王冠のマーク。しかも、12時の位置に、フルスペリングで曜日が表示されるモデルだ。

王冠のマークは、ロレックス。なかでも曜日の表示があるのは、デイデイトと呼ばれるモデルで、金やホワイトゴールド、プラチナを使った、ロレックスの中でもかなり高価なものになる。そして、アイスブルーの文字盤に、あのブレスの輝き、原田がつけているところを見ると、加工が難しく、希少価値のかなり高いプラチナ製だろうと予想された。

原田の手にあるのは、ロレックスの最高級モデル、安くても三百万、下手すると一千万は軽く越える時計ということになる。

 原田は、その時計を拳に巻きつけ、軽く握って具合を確かめると、いきなり無言で件の外人に殴りかかった。

 一瞬の出来事だった。

 すっと体が動いたかと思ったら、原田の拳が男の頬にめり込んでいた。おそらく、殴られた相手は何がなんだか判らないうちに失神させられただろう。

喧嘩慣れしているのであろう、その素早くて流麗な動きが、ひろゆきの目に残像のように残る。

 原田の拳に巻かれた、百グラムを越える重さと、目が飛び出るような値段の時計をメリケンサック代わりに殴られた男は、骨が砕かれる不快な音と共に、口から血を流して地面に叩きつけられる。

地面に横たわる男の口から、赤い血と砕かれた白い歯の欠片がごぼっと吐き出された。恐らく顎も割られたに違いない。

「NO SCRUBSっちゅう世界共通のボディランゲージやろ?」

 あっけにとられて何も言えないひろゆきに、原田はそう言って凶悪な笑みを浮かべた。

卑怯ともいえるその破壊力と、行為の凶悪さに、ひろゆきがあっけにとられ、ギャラリーの非難と恐怖の眼が、いっせいに原田に注がれる。

原田は周りのざわつく雰囲気など意にもかいさず、殴られた男には見向きもせずに、目線を拳にはめたロレックスに移す。

「あー、壊れたかな、時計。お、動いとる。さすがロレックスやな」

「は、原田さん、危な……っ」

 ひろゆきの声に時計を見ていた原田が振り返ると、殴られた男の連れが、仲間の敵を取ろうと原田に殴りかかってきた。

 男の拳が決まり、原田のサングラスが飛ぶ。

 かなり大柄で筋肉質な男に殴られたにもかかわらず、原田はわずかに体勢を崩しただけでそこに立っていた。派手な音はしたが、殴られた瞬間にとっさに身を引き、口の中を軽く切っただけで、大したダメージを与えられてはいないのだ。

 そんな事は知らず、拳がヒットし、勝ち誇った笑みを浮かべた男の顔が、飛ばされたサングラスの下にある原田の目を見て凍りついた。

 殴られた勢いで前髪が乱れ、幾筋かの髪がほつれて額に垂れ下がっている。殴られた顔をゆっくりと男へ向けた原田の、恐ろしいほどの殺気を放つ二つの目、全身から発する怒りのオーラに、男が縮み上がった。

 本物の凄みに怯えたのだ。

 原田に睨まれただけで、深海に閉じ込められたような圧力と、息苦しさが男を襲う。

この男の前から一刻も早く逃げ出したい。これ以上逆らえば、殺される方がましだと思うほどの事をされると本能的に悟り、怒らせてはいけない男を怒らせたとようやく気がついたのだ。

 自分のした事を弁解するように、二、三度手を振ってソーリーと繰り返したが、やくざを殴ってただで済むはずが無い。

この男も、暴力で大抵の事を押し通してきたのだが、それ以上の強者に自分が今までされてきた事を初めてされようとしている。

 原田の部下の黒服が、さっと飛ばされたサングラスを差し出すと、それを受け取った原田がゆっくりとつるを口に咥えて広げ、かけなおした。代わりに血まみれのロレックスを黒服に渡す。

 原田は、陳腐な脅し文句など一言も発しなかった。ぺっと血の混じった唾を吐き、怯えて動けない男に唇を吊り上げて笑いながら近寄ると、体をひねる勢いと共に長い足が驚くほど高く上がった。オラァ! という叫びと共に素早く体を回転させ、上段回し蹴りが鮮やかに男の顔にヒットする。

 決められた男は、一瞬くらっと立ちくらみしたかと思うと、白目をむいて泡を吐きながらどうと倒れた。

 見事に決まった上段回し蹴りに、関わりたくないと思いながらも目が離せなかったギャラリーから感嘆の声があがる。

「俺のロレックスが汚れたやろが、ああ? 壊れたらどうしてくれんねん。お前らの腎臓売って弁償させたるからなぁ!」

 自分で勝手にロレックスで殴ったくせに、原田はそう言って倒れてぴくりとも動かない男を蹴飛ばした。ごきっと肋骨がいかれる嫌な音がしたが、原田は意に介さない。

最後の一人は完全に戦意を失い、口から泡を吹いた仲間が無残に倒れた中で腰を抜かしている。逃げる事すら出来ない。

「組長、こいつらどうします?」

 黒服が原田に指示を仰いだ。これだけ騒いだのだから、あと数分もしないうちに警察が来る。

「日本語でゴメンナサイ言うまで痛めつけたれ」

 吐き捨てるように言った原田の言葉を聞いた途端、辛うじて気絶していない一人がゴメンナサイゴメンナサイと連呼したが、黒服たちは彼らを車ごといずこへと持ち去ってしまった。

 英語どころか、日本語まで判るんじゃねえか……。

 そうひろゆきは自分がされたことを苦々しく思うが、彼らも大きすぎる代償を払ったはずだ。

「行こか」

 そう言って背を向けた原田の後を、ひろゆきが慌てて追う。

 原田が進むにつれて、ギャラリーがまるでモーゼが海を渡る時のようにさあっと割れていくのがおかしかった。







「原田さん、腫れてますよ、顔」

 そう言って、ひろゆきが冷やしたタオルを原田の頬へ当てる。ダメージは少なかったとはいえ、口の中が切れた原田の顔は熱を持ち、無残な青あざになっていた。

 原田はベッドで大の字にねそべり、シャワーを浴びたばかりの、まだ濡れ髪でバスローブ姿のひろゆきがベッドサイドに座って原田の手当てをしている。

「俺のせいで、ごめんなさい」

 タオルで殴られた部分を冷やし、途中で買ってきた薬を痛くないように注意を払って塗りこみながら、ひろゆきが申し訳なさそうに呟く。

「ええって。こんなんかすり傷やし。先に殴ったんは俺や。ちょっとむしゃくしゃしとったからな……」

 ひろゆきの手当てを受けながら軽く目を閉じ、原田がそう言った。

 自分をいたわるひろゆきの気持ちと、頬に触れる手が気持ちいい。うっとりと両方を味わい、こんなエエ思いするんやったら、毎回でも殴られたいわと埒も無い事を思う。

「原田さん、警察に掴まったりしませんよね?」

「アホな事言いなや。やくざと不良外人の喧嘩なんて、警察がまともに調べるかいな」

「……よかった」

 ほっとしたひろゆきの頭を、安心させるようにぽんぽんと軽く原田が叩いた。

「そんな事より、お前がまたあんな目に会うたら……と思う方が怖いわ。気ぃつけ。あんなんまともに相手したらあかんで」

「はい、ごめんなさい、気をつけます……」

 素直にひろゆきが謝ると、原田が軽く頷く。

 この人は、優しいんだかそうでないんだか、よく判らないなぁ……とひろゆきが内心で呟く。あの外人に見せた情け容赦ない凶悪な姿と、自分を気遣う優しい男が同一人物とはとても思えない。

「判ったらエエ」

 ひろゆきの内心を知らず、そう言って原田がひろゆきの顔に触れた。ひろゆきが、自分の頬に触れる原田の手の上に、自分の手を重ねてぎゅっと握る。

 不意に、原田が大きなため気をついた。

「明日も気に食わん東京もんと会わなならんと思うと気が重いわ」

 ぼそっとそう呟き、またはぁ〜っとため息をつく。部下の前では、絶対に言えない弱気なセリフだ。

 原田が東京に来たのは、ある大きなプロジェクトの打ち合わせのためだった。交渉は難航しており、明日も相手と丁丁発止しなければならないかと思うと、ただでさえ疲れた体が重くなる。

「じゃあ、余計にまずいじゃないですか、こんな顔じゃ何言われるか……」

 原田が、まるでちんぴらのように顔に青あざをつけているのを見れば、相手に舐められるのは目に見えている。

 せめて明日までに少しは良くなるといいですけど、と呟いたひろゆきの手首を、不意に原田が掴んだ。

「俺な、今へこんでんねん。だから、優しくしてや」

 関西で一、二を争う暴力団の組長が、ひろゆきに甘えてそう言った。

「疲れてんねん」

 原田がそう弱音を吐くと、ひろゆきが原田の唇に軽く口付けた。ちゅっという可愛い音がして、唇を放す。ひろゆきから立ち上る石鹸のいい匂いが原田の鼻腔をくすぐった。

「今日も一日お疲れ様です」

 原田の頭をなでながら、ひろゆきが優しくそう言う。頭を撫でられる感触が気持ちいい。少し体を起こし、ひろゆきの体を捕らえ、押し倒そうとすると、いつもは大人しく従うひろゆきが体を硬くした。

「あ、いいですよ」

 やんわりと拒否したひろゆきに、原田が拗ねる。

「なんで?」

「だって、原田さん疲れてるんでしょ? 無理にしなくていいから、今日はずっとこうやっていましょうよ」

 軽くキスしたり、触れたり、他愛の無い事を喋ったり。それで僕は十分ですから。と、ひろゆきは原田に言った。言いながら、原田の体をやんわりベッドに寝かせる。

 だって、ホラ、こんなに疲れてるし。とひろゆきが原田の股間を指す。

 再びぐったりとベッドに大の字になった原田の股間が、天を向いている。

「疲れマラちゅうやつやな……」

 しんどそうに原田が言うと、ひろゆきが原田の股間に手を伸ばした。ふくらみをスラックスの上から愛おしげに数度撫でる。

「触られるの嫌だったら言って下さいね」

 そう言ってひろゆきの手がかちゃかちゃと音を立ててベルトを外し、ファスナーをおろした。

「ちょっと待ち、するならシャワー浴びるから」

「いいんです。そのままで」

慌てて起き上がりかけた原田を制し、ひろゆきは半勃ちの原田のものを手で扱いた。完全に勃起させると、口に含む。

子猫がミルクを舐めるような音がホテルに響く。

「ん……、ひろ……」

 快感に眉根を寄せ、原田がうめいた。原田が感じているのを知り、ひろゆきの行為が一層激しくなる。

 くちゅっ、くちゅっと音を立てて手で扱き、先端を吸い上げる行為をしばらく続けると、我慢できずに原田が射精した。

 原田自身を口に含んだまま、ひろゆきの喉がごくりと動く。

 手で押し出すように扱き、ちゅるっと口で残ったものを吸い上げ、ひろゆきが顔を上げる。半分体を起こした原田が、驚いた顔でひろゆきを見ているのと目があった。

「飲んだん?」

「元気出してくださいね」

 そう言ってにっこりと笑ったひろゆきに、原田が手で顔を隠しながら、どさっと枕に体を預ける。

「あー、攫いたいわ……」

 小さくそう呟き、ティッシュで優しく後始末をし、ファスナーを上げているひろゆきに向かって言った。

「ひろ、やっぱしよか」

「え? いいんですよ。眠いでしょ」

 ペットボトルのミネラルウォーターを飲みながらひろゆきはそう言ったが、原田は構わずひろゆきの体を引き寄せた。

 ひろゆきの手からペットボトルを取り上げ、サイドボードに置く。

「無理してへん。俺がしたいんや」

 ひろゆきを押し倒し、バスローブの裾から露になった太股に手を這わせながら、原田がそう言った。

 額に、首筋に、唇に。ひろゆきに優しく口付けながら、バスローブを脱がせる。キスが段々濃厚なものになっていき、ひろゆきも、キスされながら手は原田のシャツのボタンを性急に外す。

「痛て!」

 口の中に切り傷があるのを忘れた原田が、思わず深く口づけて悲鳴を上げる。顔を顰める原田がおかしくて可愛くて、ひろゆきが思わず笑った。

 



 情事の後の甘くて気だるい雰囲気の中、ひろゆきはベッドに寝そべりながら、サイドボードに置いてある原田の時計を手に取った。

 ひろゆきの手に感じるずっしりとしたその重さは、時計の域を越えている。

 プラチナの銀色の輝きと、美しい青い文字盤、テンポイントとベゼルに飾られた最高級ダイヤの豪奢な雰囲気。

プラチナの固まりともいえるこの時計を身に付けている原田の姿は、多少のえぐさも、嫌味も含め、羨望と畏怖の対象、誰もが頭を下げる王者に相応しい。本当に金と権力を持つ男の出すオーラが、時計に飲み込まれず、相乗して威風堂々とした王者の雰囲気を作り出している。

要するに「普通ではない」そう感じさせるのだ。それでいて、男性的で逞しいイメージと共に、とても洗練された印象を与える。

 その、およそ時計らしくない使い方をされた原田のロレックスは、奇跡的に壊れていなかった。普通ならいかにロレックスといえども壊れているはずだ。

 鼻歌を歌いながら血まみれの時計を洗っている原田を見たときはなんとも言えない気持ちになった。こんな時計を持っている事といい、先ほどの事といい、やっぱり、原田さんはやくざなんだよなぁ……と、自分との違いを感じてしまう。

「欲しかったら、やろか?」

 時計をまじまじと見ているひろゆきに、広いベッドの上でひろゆきの隣に横たわる原田がそう声をかけた。

「え? いいえ! この時計は、原田さんだから似合うんですよ」

 原田の言葉に、慌ててひろゆきが手を振る。とてもこんな高価なものは貰えない。ぽんと、やろか? と言う原田に、また距離を感じた。たとえ貰っても、ひろゆきの腕にこの時計は似合わないだろうに。

「そうか? 別にひろがしててもええと思うで」

 それはない……とひろゆきが心の中で突っ込みを入れる。普通のサラリーマンのひろゆきがこんな時計をしているのを見られたら、何を言われるか判らない。

「いえほんと、いただけません」

「ほんなら別なの買うたる」

 そう言った原田に、また断るのが大変だとひろゆきが内心ため息をついた。

 気を取り直し、ひろゆきがまた時計に目を移した。

 時刻は、十二時の数秒前を指している。

 3、2、1

 ひろゆきが心の中でそっとカウントした。

 時計が十二時を回って少し経った時、三時の位置にある日にちを現す数字が、カチッと軽い音を立てて変わった。

 一瞬のうちにカレンダーチェンジする、デイトジャストと呼ばれる機能が日にちが変わったことを教えてくれる。

 ひろゆきは、日付が変わるこの瞬間が見たかったのだ。

「あ、ほら、日付が変わりましたよ」

 日付の変わった時計を原田に差し出すと、原田はかすかに頷いた。

「日にちを跨いだから、昨日と今日と原田さんと一緒にいたわけですね。フフフ」

 ひろゆきがどこか嬉しそうにそう言って、時計を元あった場所に戻す。

 同じ時間一緒にいたとしても、昨日一緒にいたというのよりは、昨日と、今日、一緒にいたという方がなんだか嬉しい気がした。ただそれだけの事なのだけれども。

「なんか、嬉しくないですか? いつも一緒に居られないから、二日も一緒に居たと思うと、贅沢だなぁ」

 そう言って笑ってシーツに潜り込んだひろゆきを、上半身を起こし、枕にもたれて煙草を吸っていた原田が複雑な顔で見下ろす。

「寂しい思いさせててすまんな」

 申し訳なさそうに、ぽつりとそう呟いた。

 東京と大阪、忙しい原田と、サラリーマンのひろゆきでは、月に数度しか会えない。

「いや、原田さんを責めてるんじゃなくって、単純に嬉しいんです。原田さんと一緒にいられて。だから、原田さんも僕といる時はいやな事忘れてください。ね?」

「ひろ……」

 ひろゆきが言葉と共に体を起こし、手を伸ばして原田の首に腕を回した。そのまま原田を引き寄せてキスをする。

 会えない時間を埋めるように、何度も、何度も、優しくキスを繰り返す。

 やはり、何があってもこの人が好きだと思う。

 自分に逆らうものを叩き潰すあの凶悪な姿も、自分にかけるやさしい言葉も、全て含めて。

 原田のことをかっこいいと惹かれる部分ももちろん有るのだが、ときおりこの人を可愛いと思ってしまうのだ。原田さんの事を俺がそんな風に思うのはおかしいだろうかと思うのだが、愛しい。

 そんな事を思ってると知られては怒られるかもしれないので、黙っている。

 その代わり、キスで、セックスで、抱きしめる事で、控えめに表現して満足する。そのたびに、原田はひろゆきを抱きしめ返し、可愛いだの愛してるだの甘い言葉を囁くのだが、ひろゆきが、可愛いのはアンタだよ。って言ってやったらどうするかなあと内心思っているのを原田は知らない。

「気に食わん東京もんって、誰なんです?」

 原田の首に手を回し、原田の腕に抱かれ、心地よさそうに目を閉じていたひろゆきが、原田に問い掛けた。

「天」

 原田が、ひろゆきの質問に一言だけ返す。

「え、天さん!?」

 意外な答えに、がばっとひろゆきが身を起こした。

「気に食わん奴やろ?」

 いけしゃあしゃあと原田はそう言ったが、ひろゆきはおさまらない。

 天と原田は、喧嘩友達みたいなものだ。

「なんだ、優しくして損した」

 原田にくっつくのを止め、ぷいと向こうを向いてごそごそとシーツに潜り込む。

「なんで!? 嘘ちゃうやん」

「俺もう寝ます、ばかばかしい」

 ひろゆきの変貌に駄々っ子のように原田が抗議するが、ひろゆきは取り合わない。

「ひろ、別に騙すつもりやなかったんやって!」

 向こうを向いてしまったひろゆきの背を揺さぶり、そう言い訳するが、ひろゆきは寝たふりをしている。

 必死な原田が可愛い。ついわざと拗ねたフリして意地悪する。原田さんより俺の方がSっぽいかも。と思う。

「もっかいしよ! な!?」

「早く寝て下さい」

 どこか必死な原田の声に、冷たいひろゆきの声が被った。


 数時間後、顔に青あざをつくりやたらと喧嘩腰の原田に天は偉く手を焼くことになる。

「お前のせいや!」と罵倒され、覚えの無い天が首をかしげるのを、黒服が気の毒そうに見ていた。

原田のロレックスはやっぱり調子が悪くなったとか、ひろゆきのためにロレックスを買ったものの、どう機嫌を取って良いか判らず天に泣きついたら、たまたまいた赤木に聞かれて事態は悪化したとかで、カレンダーがまた変わるまで誰も彼も落ち着く暇が無かったのだった。



ENDE

20041205 UP

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