狐福福 1
ふわふわの毛に覆われた耳をぴんと立て、ときおりぴくぴく動かせて、小さな狐がじぃっと一点を見つめている。
「脇差と太刀なれど、お名前も同じならば、お姿も、見れば見るほど瓜二つ、ですなぁ」
庭からふわりと飛んできた花びらを頭に乗せても気づかない。肩の上にすっくと立ち、感心したように呟く狐の頭の上に載った桜の花びらを、そっと手を伸ばして取ってやる。
「水干姿がなんとまぁお可愛らしい。鳴狐にもあのような弟がいればさぞ愛らしいことでしょうねぇ」
熱心に目を向けていた小さな狐が、ほうと感嘆のため息をつきながらしみじみと呟くと、鳴狐と呼ばれた刀がお供の狐と同じ方向を見たままぽつりと返す。
「あれは、弟じゃない。対等」
「へ?」
「同じじゃない。でも別でもない」
お供の狐は首をかしげた。鳴狐が囁くような声で言った言葉を、それはどういう意味かと尋ねようとすると、楽しそうなおしゃべりの声と共にやってきた加州と大和守が廊下から部屋の中をひょいと覗き込む。
「ねぇ、小狐丸の隠し子が尋ねて来たんだって?」
「隠し子? 僕は生き別れの弟だって聞いたけど」
「隠し子でも、弟でもございませんが、私のことでしょうか」
息のあった掛け合いをする二人が、正座してにこやかに微笑む黄色い水干姿の少年を見て固まった。
「小狐丸と申します。どうぞお見知りおきを」
丁寧に頭を下げられ、みっともないところを見られてしまったと二振りが焦る。
「あの、失礼な事言ってごめんなさい」
「本当にごめんなさい」
「同じ名の刀がこちらにいらっしゃると聞いておりますからお気になさらず。姿も似ていますしね」
申し訳ないと頭を下げる二振りを、まだ子供の面影を残した小狐丸が大人びた口調で快く許す。本丸にいる、雄としての魅力を漂わせた威圧感のある小狐丸に比べ、目の前にいる小狐丸は、背も加州たちより小さく、子供らしく目の大きな顔で背伸びしているのがとてもかわいい。
「綺麗なのに、かわいい……」
いっぱいかわいい服とか着せて綺麗にしてあげたいと加州がうっとり呟くと、大和守も加州の耳元でこっそり囁く。
「正しく小さい小狐丸だね」
うんうんと二振りで頷き、大和守がしゃがんで小狐丸と視線をあわせる。
「小狐丸に会いに来られたの?」
「いいえ、こちらの石切丸さまに」
にっこり笑って隣に座る石切丸をさし示した小狐丸の言葉を意外に感じ、大和守と加州がおや? という顔でお互いを見た。
「こちらの小狐丸様は、石切丸様と同じお社にいらっしゃったそうなんですよ!」
間髪いれずお供の狐が得意そうに説明し、そうなんだ! と大和守が目を丸くした。
「石切丸さまがあまりにも頻繁にご祈祷の最中にいなくなってしまわれるので、私が様子を見に参りました」
小狐丸の言葉に、加州の顔が笑顔のまま固まり、さあっと青くなる。
祈祷の最中の石切丸を引っ張っていくの、隊長の俺だね。
「あっ、その件だけど、石切丸さん、いつもちょっとタイミング悪いかなーって俺も気になってたんだ~。でも、石切丸さんの祈祷もちょっと長すぎるかなって……」
「あ、石切丸さんがどういう風にここで過ごしてるか心配で見にきたんだね。優しいな」
「ちょっと」の身振り手振りをしながらしどろもどろの加州を大和守がひじでつつき、助け舟を出す。
「はい。一通り見せていただいたのですが、こちらに石切丸さまのお世話をするものはおらぬのですか?」
小狐丸は大和守の言葉に頷くと、かわいい顔をかしげてそんな事を言い出す。
お世話……!
お世話だって。
加州と大和守が目と目で会話するが、どう切り抜けたものかと二振りで思案してもうまい言葉が見つからない。
「えーっと、そういうのはいないかな」
お育ちが違うんだなぁと、妬むよりいっそ関心しながら加州が額に汗を浮かべて返事をする。
「いない? 一人もですか?」
心の底から驚いたらしき小狐丸の表情がみるみるうちに困惑から怒りへ変わっていくのを見て、今度はそばにいた石切丸のほうが慌てた。
「小狐丸、ここではみな自分のことは自分でするんだ。戦支度や困った時は手伝ってもらっているから大丈夫だよ」
「畑や厩の世話をしているお方がおりましたが、まさか、まさか石切丸さまも畑仕事を……?」
「小狐丸!! 美味しいお菓子があるから私の部屋へおいで!!」
青い顔でプルプル震え、今にも卒倒しそうになっている小狐丸にこれ以上衝撃を与えてはまずいと、石切丸が立ち上がって小狐丸を強引に肩に担ぎ上げた。
石切丸の部屋で美味しいお茶とお菓子を目の前に出されても、小狐丸はふいと顔を背けたままだ。石切丸を拒絶して見せまいとしたその顔には、怒ったような、拗ねたような表情を浮かべている。
「小狐丸、せっかく久しぶりに会ったのだから、顔を見せてほしいな」
かたくなな態度に石切丸が困り果てて言うと、小狐丸の目にじわっと涙が浮かぶ。
「お社をお出になるとき、心配するなと仰ったではないですか! それが、こんな」
戦から離れ、人々の幸せのために祈りを捧げる清浄な日々を送っていた御神刀が、再び血なまぐさい戦に駆り出され、大事な祈祷さえさせてくれない。そればかりか、日々の雑務にこき使われ、畑や馬の世話までさせられている……。小狐丸にとってはどれひとつとっても耐え難いことだ。
もう何を言われてもごまかされるものかとその声には恨みがこもり、石切丸はますます困ってしまう。
「石切丸さまのご祈祷の邪魔をするなど、罰あたりな……!」
怒りのあまり我を忘れて石切丸を振り向いた小狐丸の顔があまりにも青ざめていて、なんとか安心させてやりたいと心が焦る。
「罰ならわたしがお受けするから、こちらのみんなを責めないで欲しい。小狐丸も怒りを鎮めて。ほら、平常心、平常心……」
「違います! 石切丸さまのお気持ちを心配しているのす。石切丸さまのことですから、御祭紳様を蔑ろにして戦に出ることにずいぶんお心を痛めているのではないですか?」
石切丸がなだめようとして言った言葉がよけいに小狐丸の怒りに火を注ぎ、野生の獣が飛びかかるように石切丸に食ってかかる。
「小狐丸の言うとおりだけれど、こちらでは神の理より人の理が優先されるんだ」
神社とは勝手が違う。祈りより、戦いと生きるための雑用が優先される。人の身は祈りのみでは生きられず、祈りのみで敵を退ける事はできないからだ。御祭紳様にはお詫びをし、私もそれを理解し納得している。
そう諭しても、小狐丸は納得しない。
「こんなひどいところに石切丸さまをおいて帰るわけにはいきませぬ!」
悲鳴のように叫び、興奮に目を爛々と輝かせ、肩で息をする小狐丸を見て、石切丸は諦めたように大きなため息をついた。
「……仕方がないね。では、今夜は泊っていきなさい」
石切丸から言質を取った瞬間に、小狐丸が目を細め、まるで狐の面のような笑みを浮かべた。
気が済んだら帰るんだよという石切丸の言葉に小狐丸は矛を収め、和睦の証に石切丸の用意したお菓子に手を伸ばした。
ひとまずは機嫌を直し、お茶とお菓子を頂いた後は本丸の刀たちに混ざって無邪気に遊び、にこやかに夕餉の手伝いなどをしていた小狐丸だったが、本丸の小狐丸には軽く会釈をした程度で、よく見るとさりげなく距離をとっているのに石切丸は気がついた。
弟ができたようで嬉しいのか、同じ狐のよしみで仲良くしてくださいませと言う鳴狐とお供の狐とは特によく話をしていて、気にはなるものの変に口出しすべき事でもなく、どこかもやもやしながら小狐丸のために寝具を整える時間になってしまった。
ふたつ並べて敷かれた寝具を前に、あんなにはしゃいでいたのに急に元気を無くしてうつむいていた小狐丸がぽつりと呟く。
「石切丸さまは、私のわがままを怒らないのですか? 同輩のみなさまの前であのようにみっともなく騒ぎ立て、ご迷惑でしたでしょう」
「私が小狐丸を不安にさせてしまったせいだからね。怒っていないよ」
にっこりと笑い、手を伸ばして小狐丸を膝に抱き、頭を撫でる。
「来てくれてありがとう。私も神社とは勝手が違うここへ来て、迷うことがなかったという訳でもないんだ。だから私の小狐丸と会えてよかった」
よかったともう一度呟いて、石切丸は小狐丸を確かめるようにぎゅっと抱きしめた。
「狐福というやつだね」
「きつねふく、ですか?」
不思議そうに石切丸を見上げる小狐丸のふわふわした銀色の髪の毛の感触が、懐かしくて心地いい。
「思いがけない幸せのことをそう言うのだそうだよ。おや、このほっぺたも、ふくふくしているね」
「子ども扱いなさらないで下さい!」
ほっぺたをふにふにと揉まれ、小狐丸がぷんぷん怒るのを、ごめんごめんと石切丸がにこにこと笑ってなだめる。
「小狐丸が心配しないように、これからはもっと文を書くよ」
石切丸に撫でられて嬉しいのか、小狐丸も気持ちよさそうに目を細める。
「小狐丸の事はいつも想っているよ。でも、私を見送ってくれた時の泣き顔が胸から離れなくてね、あんな悲しそうな顔をさせるよりは、私を忘れたほうがいいのかと……」
「私が石切丸さまを忘れる事などありませぬ!」
小狐丸が思わず叫ぶと、石切丸が悲しそうに微笑んだ。
「そうだね、私が悪かった。小狐丸は私が戦に出ることに反対していたけれど、最後は私の出立を見送ってくれたのに、また泣かせてしまった」
「な、泣いてなどおりませぬ。いまも、むかしも!」
顔を真っ赤にして目元を拳でごしごしこすると、小狐丸は石切丸に向き直る。
「納得したわけではございませんが、今は、必要なお勤めだと理解はしております。ただ、石切丸さまとお会いできぬのが辛いです」
そう言うと、小狐丸は石切丸の手をとって安心させるようににっこり笑った。
「でも、我慢いたします。平気です。石切丸さまを信じておりますゆえ」
石切丸に心配をかけたくないと、虚勢を張って微笑もうとする小狐丸のけなげさが石切丸の胸を打つ。
「寂しい思いをさせてしまったね」
「はい、さびしゅうございました。でも、いまは大好きな石切丸さまにお会いできたから元気です」
石切丸さまも寂しかったですかと無邪気に聞く小狐丸の首筋に顔を埋める。
「うん、私も寂しかったよ」
石切丸の呟きを聞いた小狐丸が、それはたいへんと抱きしめてくれるものだとばかり思っていた。
小狐丸は、真っ青な顔で目を見開き、涙を浮かべて震えていた。
「石切丸さまが、お寂しいのなら」
お寂しいのなら、私は。
石切丸の手がそっと何かを言いかけた小狐丸の口をふさいだ。その先は言わなくてもいいと目で告げる。小狐丸がぽろぽろと涙を流しながら何度も小さく頷くと、石切丸がうすく笑って手を離した。
「私のこと、好きかい?」
「はい。大好きです」
小狐丸の答えにありがとうと小さく笑うと、石切丸が首を傾け、小狐丸の唇に唇をそっと重ねる。大好きな石切丸に口付けされ、震えるほどの嬉しさと共にこみ上げてきた欲をどうしていいのか判らず固まっていると、石切丸がふふと笑った。
唇を優しく押しつけられ、軽く吸われるとちゅっとかわいい音をがした。ちゅっちゅっと音を立てて唇を合わせ、石切丸の愛情を感じてると、気持ちよさに頭がふわふわしてくる。
「石切丸さま、大好きです」
とろんとした目をしたかわいい小狐の股間で、たちあがった陰茎が袴を持ち上げている。
石切丸がくすりと笑い、袴の上から小狐丸の陰茎を掴むと、手のひらの中に興奮した雄の形がくっきりと見えた。
手の中の若い雄を優しく揉んでやると、ひゃあと上ずった声を上げ、慌てて口を押さえた小狐丸を濡れた目でじっと見つめて石切丸がにこりと笑った。
「大丈夫だよ、ここには私の許しがなければ誰も入ってこられないからね。ここに居ていいのは、私と、小狐丸だけだよ」
安心させるように言うと、小狐丸を握った手を上下に動かした。あ、と声を出し、顔を真っ赤にした小狐丸が息を乱しながら石切丸を見て言う。
「石切丸さまが、欲しゅうございます」
「いいよ、おいで」
石切丸が両手を広げると、小狐丸が飛び込んできた。抱きしめてやると、楠の大木と大勢の参拝客が目に浮かぶような懐かしい匂いがする。
お社にいた頃は、いしきりまるさま、いしきりまるさまといつもよく慕ってくれた。
美味しいお菓子を貰っても、必ず半分は石切丸に差し出す小狐丸に、一人で食べてもいいよと言っても、石切丸さまが好きだから差し上げたいのですと頬を膨らませて怒る優しい刀だった。
それまで、二振りは穏やかで優しい日々を送っていたのに。
小狐丸の無邪気な愛情のなかに雄としての欲をにじませるようになったのは、石切丸に戦う刀として白羽の矢がたてられ、石切丸もそれを承諾し、社を出て戦に出ると知らされてからだ。
小狐丸は、離れる不安から逃れるためか、石切丸を雄として繋ぎ止めたいと望み、石切丸は応えた。
体で小狐丸を黙らせたのだと言われても仕方がないと石切丸は思っている。いまもそうしようとしている。
「私は、石切丸さまに謝らなければいけません。言っていない事があります。私は、こんなに大勢の名だたる銘刀のおわす所へ行ってしまば、石切丸さまをとられてしまうと思いました。それが怖くて石切丸さまを行かせたくなかったのです」
感情が高ぶったのか、ひっくと大きくしゃくりあげ、小狐丸は石切丸を強く強く抱きしめ返した。
「小狐丸は悪い刀です。でも、石切丸さまのことが好きなのです。罰を与えられるべきは私のほうなのです」
小狐丸が、葛藤の末に心の中の醜い想いを素直に話してくれた。ぐちゃぐちゃの感情のまま一生懸命に石切丸へ気持ちを伝えて、高ぶる感情のままぽろぽろと流す涙をそっと拭う。
だいじょうぶだよ、私が傷つくのが嫌だと心配してくれたのも本当の気持ちじゃないかと、常の私なら言っただろうと石切丸は思った。
けど、今はまだ言わないよ。
石切丸はぺろりと唇を舐め、小狐丸に微笑んだ。
「では、お仕置きだね」
小狐丸の下帯をとくと、皮に包まれた陰茎が勢いよく飛び出してきた。へそにつきそうなほど反り返り、口付けだけで硬くなったそれを皮ごとしごきながら、ああ、もうぬるぬるしているねと石切丸が楽しそうに呟く。
「まずは、このかわいい皮被りを剥いてさし上げようか」
小狐丸の目を悪戯そうに見上げると、石切丸は小狐丸の陰茎の先に口付け、大きく開いた口の中に全部くわえ込む。
唇と舌でねっとりと舐めあげられると小狐丸の口から感じている声がもれ出し、石切丸は皮と陰茎の間に舌を差し込み、剥がすようにぐるりとまわす。
「ぁあっんんっ!」
石切丸に陰茎を嬲られた小狐丸の体がぴんと弓のように仰け反り、真っ赤な顔で声を上げるのを、うっすらと顔を上気させて眺める。
「ほら、男らしくなったねぇ」
あらわになった初々しい桃色をした亀頭を舌で舐めまわし、鈴口に舌先をねじ込むと、小狐丸の体がびくびく震えた。そのまま、石切丸のなすがままの小狐丸の体を両腕で抱きかかえて引き寄せ、口の奥まで陰茎を導いてやると、石切丸の頭を抱えた小狐丸が野生の雄の本能のまま喉奥目指して腰をふりだす。
口の中でにゅるにゅると動く若さではちきれそうな陰茎の硬さを楽しみ、たまに意地悪するように吸い上げてやると、がくがくと膝が震えるのを優しく支えてやる。
「いしきりまるさま、石切丸さまのおくちで吸われると、頭がへんになります」
口で愛撫されただけでいっぱいいっぱいの小狐丸の初心な反応を上目遣いで見ながら、石切丸は唾液でぬらした指先を小狐丸の尻穴にそっと忍ばせる。
「あう……」
石切丸の指が優しく尻穴に触れ、とんとんと叩く刺激が体の奥まで響く。じんじんと疼く雄の快楽の元まで届いて震わせるその刺激で小狐丸の陰茎がぴくんと跳ねる。
「だめです。いけません」
触られると敏感に反応するのに、小狐丸はぶんぶんと首を振り、石切丸は小狐丸の陰茎を口から放して顔をあげた。
「きもちよくないかな?」
「気持ちいいです。でもいけません。それは、小狐が石切丸さまにすることです」
石切丸の与える快楽の虜となり、とろりと溶けた目をしているくせに、小狐丸はきっぱりと雄は自分だと言い切る。それがかわいくて石切丸の口元がほころびかけたが、小狐丸の雄としての矜持を傷つけないようあわてて口元の笑みを消した。
「では、こっちで気持ちよくなろうね?」
口の中に溜めた唾液を舌先に伝わせ、とろりと亀頭の上に垂らす。てらてらとぬれる充血した赤い亀頭を大きな手で包み込むように捏ねると、小狐丸が口をあけて切なげな声をを出した。
「あっ、あっ、石切丸さま、きもちい、あっ……!」
「これも好きかい?」
鈴口から溢れる先走りを指の腹に塗りつけ、鈴口の辺りをくるくると回す。
「は、はい。……んんっ! ん。そんな、こすると、あ、あ、もう出てしまいますっ」
「こんなにパンパンになっているし、一度出してしまおうか」
小狐丸を射精させようと陰茎を握った石切丸の手が激しく上下する。くちゅくちゅという粘っこい音と石切丸に追い上げられる小狐丸の荒い息が重なり、部屋中に響いた。
「っふわっ! ぁあっ! ぁあっうう!!」
やがて小狐丸がぴんと背を反らしてひときわ大きな声を上げると、びゅくんと亀頭の先から勢いよく白い精液が飛び出す。
あ、すごいねと石切丸が若い娘のようにはしゃいだ声を出し、ほらほらもっと出してごらんとしごきあげる。
「すごいね、まだ出ているよ」
荒い息をついて震える小狐丸の陰茎が、びゅく、びゅく、と精液を吐き出し、石切丸が楽しそうに笑う。
やがて小狐丸の吐精が終わると、石切丸が根元から絞り上げるようにして尿道に溜まった精液まで残らず全部搾り出した。
「たくさん出たねぇ……。おや、まだ出し足りないのかな? まだかたいようだけど」
小狐丸の大量の精液を手にひらに受け、満足そうにしていた石切丸が、未だに反り返った小狐丸の陰茎に気づいてふふっと笑う。
「我慢はいけないよ。一人でするやり方を教えただろう? 見ていてあげるからやってごらん」
頭の中が真っ白になっているのか、とろんとした小狐丸の手をとり、陰茎に添えてやる。
「石切丸さまのなか……いれたいです」
「さぁ、手伝ってあげるから。上手くできたら私の中で出させてあげるよ」
ちろちろと舌で小さな乳首を舐め、指でつまんでやると、小狐丸が快感に身をよじって石切丸を見上げる。
「いし、きりまる、さまぁ。いしきりまるさま……!」
切ない声を上げ、ぎこちなく自分の陰茎をこする小狐丸の手の動きが、射精を欲してだんだんと激しくなり、その姿を愛しそうに見つめていた石切丸が耳元に唇を寄せた。
「上手だね。いつも、私を想ってしてくれているのかい?」
「はい、はいっ! 申し訳ありませぬ。小狐は、石切丸さまのことを考えるとお股がこうなってしまうのです」
「嬉しいよ」
熱い息が耳にかかり、ぞくぞくとした快感が背を這い上がる。射精の気配にびくびく体を震わせる小狐丸の手に触れてしごくのをやめさせると、石切丸がそっと小狐丸を寝具の上に押し倒した。
「私も、久しぶりだからもう我慢できないな」
欲情した顔で袴を落とす石切丸に、小狐丸の雄が期待してぴくんと跳ねた。
「小狐丸が欲しいよ」
石切丸はそう言って、小狐丸の陰茎を尻穴にあててゆっくりと腰を落とす。狭い穴を押し広げ、ずぷずぷとはいってくる小狐丸で腹がいっぱいになった気がして満足感に体を震わせる。
「ひゃぁ!」
「ん……。奥まではいったよ」
きゅっと眉を寄せて、きつそうな、気持ちよさそうな表情を見せると、石切丸は大きく息をはいた。
「いつもより大きいかな? 気のせい?」
中にいる小狐丸を確かめるようにゆっくり腰をまわして、機嫌のいい石切丸が小狐丸の目を見て笑った。
「石切丸さまのお乳も舐めたいです」
手を払われないかと心配したが、小狐丸がそっと手を伸ばし、石切丸の内番着の上から乳首をさぐると指でかりかりと引っかいてそこを欲しがる。
「女人のようにふくらんでいるわけでもない私のここの何がいいのか判らないけどねぇ」
苦笑しながら着物をくつろげると、尻尾をふらんばかりに目を輝かせた小狐丸が体を起こし、期待に満ちた目で石切丸によしと言われるのを待っている。
「はい、どうぞ」
差し出された、白い肌の上で充血してとがった乳首に我慢ができなかったのか、飛びついた勢いで石切丸を押し倒し、口に含んでちゅぱちゅぱと吸いはじめる。
「子犬みたいに一生懸命吸って、かわいいね」
安心しきり、満足そうな表情で目を閉じた小狐丸の頭を撫でていた石切丸がぴくんと体を震わせた。小狐丸が強弱をつけて乳首を吸いながら、さかりのついた犬のように激しく腰を振りはじめる。
「小狐丸、そんな強く吸っては大きくなってしまうよ。お風呂のとき恥ずかしいからやめなさい! お尻も、そんなにぐりぐりしたら穴が広がってしまう。もっとゆっくり、優しく! あ……んんっ!」
慌てた声を出すが、与えられる快感に力が入らず、やがて真っ赤な顔を仰け反らせ、小狐丸の腰の動きを大人しく受け入れる。ずぽずぽと穴に出し入れされるたび、気持ちいいところに当たって全身が尻穴の快楽で塗りつぶされてゆく。
「……ぁあ、優しくしてくれれば、あ、や、やめないでいいからね。きもちいいよ」
「石切丸さま、もう、もうっ! 出ます。ふわっぁあっ……」
「ダメだよ。まだ。もうちょっと頑張りなさい」
石切丸の体にしっかりと抱きつき、ぎゅっと目を閉じて射精へ向けた動きを早める小狐丸にそう言うが、動きはますます早くなる。
「あ、こら。出すのはダメだと言っているよ!」
石切丸が叱っても、小狐丸は涙目で見上げるだけで腰を振るのをやめない。
「っつ、あ、や。熱くて、うねってて、あ、あ、石切丸様のいやらしいおおきいお尻 が気持ちよくてとまりません」
泣きそうな顔で石切丸がそんなことを言うので、苛めてしまいたくなる。
「小狐丸が一人でする時に想像する私と、今の私と、どっちがいやらしいのかな?」
「あ、あ、い、いまの石切丸さまです!」
小狐丸は絶叫し、好きです、好きですと繰り返しながら、肉と肉がぶつかり合う音を立てて腰を打ち付ける。石切丸の中で射精したいと、そのことでいっぱいになっている小狐丸のふわふわの髪の毛を撫でて、石切丸が頬に触れた。
「そんなに頑張って腰を動かして、私の中で出したいんだね」
「は、はいっ! 石切丸様のお尻の中に出したいです」
目を合わせて想いを確かめ合うと、石切丸が小狐丸の腰に足をまわし、ぎゅっと締めあげた。
「出しなさい。そら!」
急に陰茎を締め付けられ、そのままぐいと奥へ押し込まれた小狐丸の目が見開かれる。
「あ、っぁあっ」
頭の奥で星が散ったようにちかちかとし、石切丸の奥で精子を吐き出そうと思い切り腰を突き出した。陰茎の先から、びゅくびゅくと精子が出て行く感触に小狐丸は体を震わせる。
「ん、ふぁ、出てしまいました」
ゆっくりと腰を振り、小狐丸はうっとりと石切丸の中を楽しんでいる。
「あ……。小狐丸のがぴくぴくして熱いのがたくさん出てるのが判るよ」
石切丸の肉が小狐丸に注がれた精子を飲み込むようにうねり、どうしようもなく自分の体が喜んでいると思い知らされた石切丸が恍惚とした顔で呟いた。
「申し訳ございませぬ」
射精して落ち着いたのか、耳に似た毛までぺたんと下げ、小狐丸が泣きそうな顔で石切丸の尻穴から萎えた陰茎を引き抜く。
「どうして謝るのかな? 小狐丸が気持ちよかったら、私もうれしいよ」
はーっはーっと荒い息を吐き、体に力が入らない石切丸が無理をして笑顔を作ると、しょんぼりとした小狐丸を慰めようと手を伸ばしかけた。
その手を後ろから掴まれて、ぐいと体を引き上げられる。
「なぜ謝るか、などと。お優しい事を仰る。そんな童では満足できないでしょうに」
触れようとしたのに引き離され、掴まれた手に感じる苦痛に顔をゆがめた石切丸の目が見開かれ、軽い恐怖すら浮かべてその姿を瞳に写した。
欲望に乱れたあとの石切丸を冷たく見下ろすのは、石切丸さま、石切丸さまと慕ってくる、かわいい小狐丸ではない。堂々とした体躯と、危険な野生を赤い瞳に宿した雄。
「小狐丸、なぜ……」
「なぜ、ここにいるのか、ですか? 石切丸が言ったのですよ。ここに入れるのは、あなたと『小狐丸』だけだと」
淡々とした声が容赦なく耳を打つ。
苦しそうに顔をゆがめ、石切丸が、もう一振りの『小狐丸』を見た。
終
2016.06.26 UP
発出 2016.02.14 pixiv
「狐月」再録
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