冬には色あせて陰鬱な死がはびこっている。
 雪の上にぽたりと落ちた赤い血のような椿と、艶やかな緑の葉が、僕にそれを教えてくれた。
 冬の緑というものが、どれほど心を安らげてくれるものかを。

 椿の枝を手土産に、石切丸の部屋へ行く。
 こたつに入って、頼まれた札を書く石切丸の隣で鯰尾から借りたマンガを読んで、お昼を食べて、こたつで昼寝をして、こたつに入り込んだにゃっかりをうっかり蹴飛ばして足を噛まれる。
 夕飯を食べて、石切丸の腰をもんだあと、歌仙から借りた本を読んで、朝の祈祷用に書いているのであろう祝詞を確かめている石切丸の声を聞きながらこたつでうとうとする。
 もう遅いから自分の部屋へお帰りという君に、冬に一人で眠るのは寒くて悲しくなるから嫌だよと子供のような事を言うと、石切丸は少し困った顔で、ならおいでと言ってくれる。
 悪いなと思うほど石切丸は何度でも僕に騙されてくれる。
 だから今夜も、ああごめんねと胸を痛めながら僕の上で揺れる君の眉を寄せてきゅっと目を閉じた顔を見る。
 石切丸が閉じていた目を開けると、僕と目が合って、快楽に飲み込まれそうになりながら一生懸命笑おうとしてくれる。
 僕が突き上げると、その健気な気持ちも姿も一瞬で打ち砕かれ、悲鳴のような短い声を何度もあげると、絡ませた指にぎゅうっと力を入れて、背を反らせて体を大きく痙攣させる。何度も何度も。
 ごめんね寒いよね。僕が上になろうか。
 もうなにも考えられないのか、蕩けた顔で子供のようにこくりと頷くので、朝が来るまで何度も君に同じ顔をさせてしまった。
 そんな顔をされると止められないんだよと、さほど心も痛まないくせに言い訳をして、冬の僕は石切丸の前で毎晩悲しい顔して一人で寝たくないと駄々をこねる。

 夜が明けると、朝の祈祷に起きた石切丸がどたばた慌てていた。
 お願いだ。後生だから外を見ないでくれと君は言うけれど、外へ出なきゃなにもできない。
 僕のその言葉に、僕を止めようとする石切丸の手が力なく落ちたのを見て障子を開けると、思わず声を上げた。
 昨日までの枯草に雪の積もった冬の庭に、今朝は桜が咲き誇っている。
 頬を切るような冷たい冬の風が吹くと、ひらひらと季節違いの花びらが部屋へ。驚いて立ちすくんでいる僕に、私が春にしてしまったんだと言うと、石切丸はへたへたと座り込む。
 しれっと言えばいいのに、そんなに顔を真っ赤にして恥ずかしがるからばれるんだ。
 外国の神話では、喧嘩をしていた男神と女神が仲良くすると春が来るというけれどね。
 僕が言うと、石切丸はますます顔を赤くした。
 だって昨日の君がすごくよかったんだよ。
 これでも頑張って抑えたんだよ。だから私の部屋の前だけで済んだんだ。
 大きな体を小さくしながら、恥じらって呟く石切丸が可愛くて、もっと苛めたくなる。困ってるって判っているんだけど。ごめんね。
 じゃあ、今度は本丸中の冬を春にしてやらなきゃね。
 にっかり笑ってそう言うと、石切丸がぶんぶん頭を降る。
 駄目だよ本当に。君は本当に気持ちよすぎて私をおかしくするんだから!
 やけになって叫ぶ石切丸に、急に僕は嬉しくて泣きたいような気持ちになった。君は僕と違って、とても素直で、とても豊かだ。
 冬の椿の美しさを知ったときと同じ、気づくことさえできなかった。
 死の世界にいる僕に、瑞々しく生命力に溢れた色が飛び込んでくるまでは。
 冬の緑のように、僕の世界に、君の色がどれほど貴重なのか、君は知らないだろう。





2016.06.26 UP
発出 2015.11.03 にか石ワンライ お題「冬」


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