何度同じことを聞くつもりだと歌仙くんが怒っている。だって僕も久しぶりだから、いろいろ心配になってしまうんだよ。
 僕の目を真っ直ぐ覗き込み、自分が信じられないのなら、君の支度をしてやった僕の美意識を信じろ。なんて言う歌仙くんがかっこよくて見とれていたら、みっともない。もっと自覚を持てと叱られた。いやだなぁ。どうなったって僕は僕だよ。これからも歌仙くんに甘えるからね。

 歌仙くんの部屋を出て、脇差部屋へ出立の挨拶に行く。よかったね。とっても立派だよ。と鯰尾が涙ぐむ。めでたい事なんだ。笑顔で見送ってやれとクールに骨喰が言うと、鯰尾はぐいと手の甲で涙をぬぐった。ごめんでも青江とお別れするのが悲しくて。そんな大げさな。ちょっとだけ関係が変わるだけさ。なんて思ったけど、僕もだいぶこみ上げてくるものがあった。もう脇差のみんなと、夜を走ることはないんだ。
 今まで一緒にいてくれてありがとう。君たちと仲間でいられて本当によかった。変わらず仲良くしていたいよ。だからまだまだこれからもよろしく。
 
 脇差部屋を出ると、手合わせ帰りの粟田口の短刀たちに囲まれてきらきらした目で見つめられる。あまりにもみんながかっこいいと言ってくれるので照れてしまって、なら、いち兄とどっちがかっこいいかな? なんて意地悪な事を言う。案の定、優しい短刀たちは困ってしまって顔を赤くしたり青くしたり。かわいいねぇ。
 今日ばかりは青江殿でしょうとすかさずご本人が突っ込んでくれた上に誉め倒してきたので僕は慌てて逃げ出した。おいおい、いち兄新人いじめかと薬研が笑うけど、発言の主は不思議そうにしている。一期一振はあまりにもストレートに王子様だ。今の僕ならと思っていたけれどやっぱり無理だね。王子様になるのに大きさには関係ないと判ったよ。

 どこの大将殿かと思ったぞ岩融が笑う。薙刀、大太刀、それに槍がおそろいだ。どうだいすごく変わっただろうとかっこつけると、おーなんか着てるものが上等になったな! と御手杵が嬉しそうに言う。違う、そこじゃなくて、もっと大きくなったよねぇ。僕自身のことだよ?
 なんか今日の青江近くないかい? という次郎太刀の言葉に太郎太刀があいまいに頷く。惜しい。でもいいよ。でかい連中がいかに大雑把かというのはよく知っているからね。

 三条の部屋へ向かうと、にこにこと笑いながら三日月が近づいてくる。
 いいのか? という問いに、いいよ。と答える。
 僕が得たもの、引き換えに失ったもの。
 後悔は無い。
 よろしく頼むと手を強く握られ、石切丸が待ちかねているぞと三日月が部屋の戸を開く。中にいた石切丸が僕を見て、驚いて目を見開き、やがて蓮の花が開くようににっこり笑った。
 準備できたよ。さぁ、行こう。
 そう言って手を伸ばすと、石切丸はとつぜんぽろぽろと大粒の涙を流して両手で顔を隠してしまった。
 そんな風に天岩戸にこもられたら困るよ。ねえ顔をあげて、紅が取れてしまうと囁き、石切丸の顔を上げさせる。
 嬉しい? と聞くと、石切丸は泣きながらうんうんと頷いた。ありがとうと呟いて、また僕の顔を見て涙を流す。お礼を言うのは僕のほうなんだけどねぇ。
 だって君は、僕を御神刀にしてくれた。
 青江くんから夜を奪ってしまった。うん、でも、心配しないで。体も元通りに大きくなったし、力も強くなったよ。
 今の僕は太刀で、君の御紳刀で、もうすぐ神無月だ。
 急がないと、神議に間に合わないよと急かすと、僕の神様は、石切丸は、涙を手甲で拭いながら頷いて立ち上がった。
 紅を直したらすぐに出発しよう。
 君に見せたい景色があるんだといつも話してくれていた、神有月の出雲へ。






2016.06.26 UP
発出 2015.10.05 1週間石切丸と青江チャレンジ その2


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