避けようと思えば避けられた。
 刃を正面から受け止めたのは、僕の事しか考えてない、その顔を見たかったから。
 いくら神社暮らしが長かろうと、やはり君は武器なんだ。いつもの優しい顔が嘘のように、殺気に満ちて、持ちうるすべての力とすべての意識を、戦う事に、僕へ向けていた。
 訓練といえど殺されてしまうかと思ったよ。
 そっと胸元に触れると、青くなった肌が熱を持っている。指先に少し力を入れると襲ってくる鈍痛に低い呻きをあげた。
 力負けする前に刀をずらして逃げようと思っていたけど、まさか吹っ飛ばされるとは……。
 予想以上の馬鹿力だったと反省する。石切丸をなめていた。相手の力量を読み間違うのは失敗であり恥だ。しかしまさかあののほほんとした御神刀さまがあれほどの化け物だったとはとため息をつく。同じ戦場に立つものとしては複雑だ。悔しくもある。
 ちょうど胸の真ん中あたりをしたたか打ち付けられ、息ができなくなった青江に真っ先に駆け寄り、真っ青な顔で覗き込まれた。
 青江、あおえ。大丈夫かい? すまない、すまない。ああ、青江! だいじょうぶかい……。
 石切丸、この世の終わりのような顔をしていたな。
 あんなに慌てふためいて、今にも泣きそうな顔で僕を一心に見るものだから、くせになりそうだ。
 思い出して思わずくつくつ笑うと、とたんに襲ってきた痛みに顔をしかめた。
 大きく息を吐いて痛みを逃がすと、ふすまの向こうから遠慮がちに声をかけられる。
「青江くん、入ってもいいかな?」
 どうぞ。と返事をすると、襖が開いて、正座をした石切丸がやはり心配そうな目をして壁を背に座り込んでいる青江を見ている。
「氷と、湿布をかえようと思って」
「大げさだなぁ。折れてはいないからどうということないよ。いざとなれば手入れ部屋に入ればいいんだし……」
「そうはいかないよ。君の大事な体の事なんだから」
 石切丸はそう言って、青江の傍に膝をつく。まるで子供にするように、手を伸ばして青江の額に触れて熱を測る。柔らかい大きな手のひらが触れるのが心地よくて、子供じゃないと文句を言うのをやめた。
「触るよ」
 青江が頷いたのを見て、石切丸の指がシャツのボタンを外した。
 どくんと大きく心臓が脈打って、青江の中に熱が生まれる。
 シャツを大きく肌蹴けさせ、あらわになった青江の胸元を見て、そうっと触れた石切丸が辛そうに眉をしかめる。
「ああ、こんなに熱を持って……。痛そうに」
 石切丸の触れた箇所が熱くなる。
 青江の気持ちも知らず、石切丸の手は繰り返し繰り返し肌をなでる。青江を思いやる温かく優しい気持ちが、指先から体中にじんわり広がる。
 なのに僕ってやつは。
 君に触れられて、ヘンなところがヘンな熱を持ってるよ。
「本当に、すまなかったね」
 もう何度目かも判らない謝罪の言葉をする石切丸に、青江は拗ねたようにふいと横を向いた。
「あまり謝らないでくれるかな。自分が惨めになる」
「あっ、すま。ん……」
 目を白黒させている石切丸へ向き直り、まっすぐ目を見て言う。
「悪いと思っているのなら、次の訓練は全力できてくれ。変な遠慮は無用だよ。僕はもうこんなへまはしない」
「もちろんだよ!」
 力強く返事をした石切丸が、青江君は強いし! などといかに青江が強いかを前のめりで熱く語り出したので、にっかり青江は今度は羞恥で顔が熱くなるのだった。




2016.06.26 UP
発出 2015.07.15 にか石ワンライ
お題 「熱」

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