◆CLOSE TO ME◆
俺も淳も同じ人間で無い以上、考え方も違うし、感じ方も違う。何をすれば喜ぶか、何をすれば悲しむのか。俺は淳の事をもっと知りたい、俺の事もっと知って欲しい。それを上手く伝えるためにはどうすれば良いのだろう? 俺は不器用だから言葉が見つからない。ただ、好きだから、喜んで欲しいから淳に優しくする。
俺が優しくしたら、淳は俺が淳の事が好きだって少しは判ってくれるだろうか?
僕も達哉も違う人間だから、理解できない事もあるし、ズレてるところもある。でも、僕たちは違う人間だからこそお互いを尊重して愛する事ができるのだと思う。僕たち二人がもし全く一緒だったら、それは自己愛にすぎないんじゃないか? 僕たちは違う人間だからすれ違う事もあるし、完全に理解しあうなんてできないけれど、僕は君に少しでも近づきたい。でも言葉じゃ上手く伝わらなくてもどかしい。どうすれば伝わるんだろう?
「だからそれは、世間一般では『ナンパ』と言うんだ」
俺はことさら不機嫌そうな仏頂面をつくって言った。全く、こいつは自覚が無さすぎる上に無頓着なんだ。側にいる俺の方がひやひやする。淳の微笑み一つでどれだけの男が勘違いすると思ってるんだ? 淳にその気が無いなんて判っていても、俺は面白くない。
「……だって困ってるって言ってたし」
俺の言う事が納得できないのか、淳は小さな声だったが、それでもはっきりと抗議してきた。少し首をかしげた上目使い、切れ長の涼しげな瞳を、一瞬アイラインを引いてるのか? と勘違いしてしまいそうなくらいの長い睫がふちどってる。瞬きするたびに音がしないのが不思議なぐらいだ。
「その後なんて言われたんだ?」
おもわず見とれてしまいそうになりながらも、ぐっと顔を引き締める。ここははっきり言っとかないと後々俺が苦労するんだ。お前は誰にでも優しい、でもお前が優しくするのは俺一人でいい。つまらない独占欲なんて百も承知だが、他のやつに笑いかける余裕があるんだったら、俺に笑え。
「『お礼にお茶でも』って……」
「だからそれは、『ナンパ』だ!」
何の疑問も抱いて無いのか、素直に答える淳に俺は一瞬くらっと来た。……こいつ、人を疑わなさすぎだ。ほっといたらどんなたちの悪いやつに引っかかるか判ったもんじゃない。ここは淳のためにも俺のためにもはっきり教えておかなければならないと思い、一層の決意を込めて断言した。俺以外の男についていくなんて言語道断だ。
「ちがうよ! ほんとに道に迷って困ってたんだよ、困ってる人をほっとけないじゃないか!」
まだ納得できないのか、口を尖らせて淳が言い張った。全く、はかなげなくせして芯は強い。実は強情な淳を納得させるにはまだまだ苦労が必要なようだ。
お互いが近づけば近づくほど、俺と淳のずれを感じる。俺の認識の違いと淳の認識の違い。俺の考え方、価値観と淳の考え方と価値観の違い。違う人間だと言う事を見せつけられる。
お前にはそうでなくても、俺には嫌なこと。わがままとの紙一重。
「あのなぁ……」
俺はお前が他の男に優しくするのが嫌なんだ。……さて、勝手な感情を口下手な俺がどう淳に上手く伝えればいいんだろう? 嫌な男だと思われないように、誤解されないように。
俺はこの先の苦労を考えて思わず天を仰いだ……。
◆◆◆
自覚が無さすぎて無頓着なのは達哉の方だ。と僕は思う。絶対そうだ。
僕が道に迷って困ってる人を案内してあげようとしたらすごい剣幕で怒られた。おまけに今日の買い物はそれで中止。いい事したのに、達哉の部屋で説教食らってるなんて理不尽だ。達哉は僕のこと何もできないバカだとでも思ってるのかな? 僕にはペルソナもあるし、いざとなったら一人で切りぬける自信もある。第一、人の事をそんなに疑うものじゃないよ。もう、達哉はいったい何が言いたいんだろうな? それに……、我慢してたけど達哉がそう言うんだったら、僕にも言いたい事がある。
「自覚が無さすぎて無頓着なのは達哉の方だよ」
僕は反撃に出た。この際だから言ってやる。僕だって君には苦労してるんだぞ。君のちょっとしたしぐさがどんなに僕を喜ばせるか、僕を落ちこませるか、ちょっとは自覚してくれないかい?
「な、なんだよ……、俺が何したんだよ?」
まさか僕が言い返すとは思っていなかったのだろう、達哉がちょっと動揺した。フフフ、変なの。お互い自分が悪い所なんて全く無いと思ってるのに、フタを開けたら、達哉と僕はずれてばっかり。達哉の常識は僕の非常識、僕の常識は達哉の非常識。さぁ、どうやって乗り越えていけばいいんだろう?
「今日、買い物行った時、休憩所のベンチで寝てたじゃないか!」
「寝て何が悪いんだよ! ちゃんと荷物は持ったじゃないか! 俺は自分の責任を果たしたぞ!」
ほら! やっぱり達哉判ってない! 達哉と僕の間の差を感じて、僕は一瞬気が遠くなるのを感じた。ああ、もう! ちょっとは僕の事理解してよ!!
「ちがう!! 達哉、あんなところで寝るなんて自覚無さすぎるよ!」
達哉の寝顔がどんなにかわいいか本人にはさっぱり自覚は無いらしい。ばさばさの長い睫とか、整った顔とか、いつもはきつい表情が子供みたいになって、ほんっと可愛いんだ。多分達哉にそう言ったら照れて見せてくれなくなるだろうから、僕、毎晩こっそり見てたのに。
明かりを消した部屋の中で、達哉の寝顔を見ると、僕は自分がとても達哉の近くにいるのを感じて幸せな気持ちになるんだ。こんなに無防備で人には見せない達哉を見せてくれるのは僕が特別だからだって思ってたのに、達哉の寝顔を見るのを許されるのは僕だけだと思ってたのに。いつのまにか僕の中で、達哉の寝顔を見る事は僕が達哉の特別な証みたいに思ってたんだ。なのに、なのに……。「ちゃんと座って寝たから誰にも迷惑かけてない」
達哉が不満そうに僕に向かってそう言った。ちが〜〜う!! 問題はそんな事じゃない! ほんとに達哉自覚無さすぎ。僕が、どんなにその事を大切にしていたか君はちっともわかってくれないんだね。そう思うと、なんだか無性に悲しくなってきた。
「君の回りに女の子の人だかりが出来てたの気がつかなかったの!」
ついてなかったんだろうな、気持ちよさそうにぐーぐー寝てたし。達哉のバカ! 僕が大切に思ってた君の秘密をあんなに簡単にほかの人にも見せちゃうなんて。君が一方的に悪いんじゃないってことは僕も判ってる。僕の中の常識が君に通用しない事なんてわかってるけど、僕の大切なものを踏みにじられるとやっぱり悲しい。特に君には。
「?? 何が言いたいんだよ?」
「僕は君の寝顔をほかの女の子に見て欲しくない!」
……とうとう言ってしまった。僕のわがまま。でも、お願い、判ってよ達哉。君にとってはどうでも良くても、僕にとっては大切な事なんだ。
「……良いじゃないか、減るもんでも無し。なに怒ってるんだ、おまえ?」
僕の気も知らずに、達哉は意外そうに2、3回ぱちぱちと瞬きすると、全く判らないと言った口調で言った。
僕は、内心で多少どころじゃなくがっかりする。君の寝顔を見て周りでどんなに女の子達が殺気立ってたか! (誘拐されてもおかしくなかったと思う)
君のベッドで、君の寝顔を見るのは僕だけの特権だと思ってた僕が裏切られたみたいでどんなに面白くなかったか! 僕の気持ちも知らないでよくもそんなのほほんとした顔で……。そう思うと、僕の中で寂しさや悲しさが膨れ上がる。達哉に判ってもらえなくて、途方も無く寂しくて悲しい。君にとってはくだらなくても、僕にとっては大事なんだよ…。
◆◆◆
「な、なんだよ、なに涙ぐんでるんだよ」
俺は動揺した。淳が涙をためた瞳でグッとこちらを睨みつけている。正直、俺は淳がなんで怒ってるのかさっぱり判らない。寝顔が見られて恥ずかしいのは俺だ、それを何で淳が怒るんだ? 俺は淳が判らなくて慌てた。とにかく淳を泣かせてしまっておろおろしてしまう。
「…………てよ」
「は?」
淳の唇がかすかに動いた。良く聞き取れない。俺は不謹慎にも、淳の瞳に涙の粒がたまっているのを綺麗だなぁと思っていた。泣かせた罪悪感の中に、淳の事可愛いと思ったり、淳のこんな顔を見れて良かったという発見の喜びがちらりと横切る。……ゴメン、淳。
「だったら側にいてよ!」
叫ぶやいなや、がばっと淳が俺にしがみついてきた。細い腕が俺がきゅっと抱きしめる。全く分かり合える様子もない俺との押し問答についにキレたみたいだ。頼りない子供みたいな淳の態度……。
俺はできるだけ優しい声を出そうと勤めた。淳を泣かせたくない。淳が何を考えてるのか知りたい。他人を理解するなんて、途方も無い労力が必要だ。淳のためならかまわない、俺は淳の事を知りたい。どうすれば笑うのか、どうすれば泣かせないで済むのか知りたい。そのためなら努力は惜しまない。でも、そのためにはどうすればいいのだろう?「淳……?」
「僕のことそんなにほっとけないんだったらいつも側にいてよ! 離さないでよ!」
顔を見られたく無いのか、淳が俺の胸元に顔をうずめたまま叫んだ。俺を抱きしめる淳の手により一層力が入る。俺には不安な子供が母親の手を離すまいとする様に見えた。俺はおまえの事を知らない。俺は淳のことを知らないうちに傷つけたんだろうか?
……俺、おまえを不安にさせてた?
そう思うと、罪悪感がきりりと胸を締めつけた。また淳の事判ってやれなかった。おまえの事を知りたい。どうすればお前に近づける? どうやって俺の事を伝えればいい? どうすればお互い分かり合えるんだ?
その方法を誰か俺に教えてくれ……。
◆◆◆
「僕は絶対達哉の側離れないからね! 絶対、絶対だよ!」
「おまえ、言ってる事わかんないぞ……?」
達哉の呆れた声が頭上で聞こえる。みっともない顔を見られたくなくて、僕は達哉の制服のシャツに顔をおしつけた。達哉、呆れてる。そう思うと、みっともなくて情けなくなった。
「僕だってわかんないよ!」
達哉の越えに叫び返す。頭がぐちゃぐちゃで何言ってるのか判らないし、僕のわがままだってことは判ってるし達哉だって困ってる。でも止まらないんだ。
自分がこんなに嫉妬深いなんて思わなかった。あれくらいの事で達哉を取られたような気持ちになるなんて思わなかった。一度吐き出すと止まらなくって、そんなつもりじゃなかったのに僕はどんどん暴走してしまった。それがまた、恥ずかしくて情けくて余計落ち着けない。嫌な感情のどつぼにはまってしまって抜け出せない。「……判ったから」
達哉の優しい声が聞こえる。僕はずっと我慢してたんだと言う事にやっと自分で気がついた。思った以上に傷ついていた事にやっと気が付いた。言っても平気だと思ったけど、それは大間違いで、いったん言葉にするとどっとあふれて止まらなかった。
だから、ここでうやむやにしては欲しくないんだ。僕のみっともないところを見られるのは嫌だけど、これが僕なんだから見届けて欲しい。これが僕だって知って欲しい。でもどうすれば伝わるのだろう? どうすれば伝えられるのだろう?「判ってない、達哉ちっとも判ってない!」
ただなあなあにこの場を治めては欲しくない。簡単に逃げて欲しくない。簡単に判ったなんて言わないで! 僕、君の寝顔を他の人に見られたのもショックだったけど、僕が受けたショックに全然君が気づいてくれなかった事はもっとショックだったんだよ!
僕はこんな事で傷つくような人間なんだ。
もっと僕の事を知って。
僕ももっと君のことを知りたいよ。
「もう、黙れよ……」
「でも達哉!」
達哉の落ちついた静かな声。大好き。僕は頭の中がぐちゃぐちゃになっても、反射的にそう思ったのがなんだかおかしかった。でも今はその声に従うわけにはいかない。ちゃんと僕の言いたい事を伝えないといけないと思うけど、混乱して上手く言葉が出てこない。伝えなきゃいけないのに!
「黙れったら……!」
達哉がそう言うと、大きな手でがっちりと僕のあごをつかむと、強引に僕の顔を上向かせ、唇をふさいだ。僕は抗議の意をこめてぎゅっと目をつぶる。
「ン……」
息もできないような深いキス。達哉が優しく僕の舌を誘い、かたくなにちぢこまっていた僕もおずおずとそれに答えた。達哉の優しいキス。達哉の優しさがじんわりと僕の中に染み渡っていく気がした。不思議と達哉が僕のことを大切に思ってくれてるという気持ちがわかって、閉ざしてた僕の心が少しずつ開いて行く。
「悪かった。もうおまえの嫌がる事はしない。気がつかないで、ごめんな」
罪悪感を含んだ達哉の声に僕は少しだけ目を開ける。それに気がついた達哉が、僕の目を見て済まなそうにかすかに笑った。
「ちがう……ごめっ。悪いのは僕のほうだ……」
ごめんなさい、ごめんなさい! 変な事言って困らせたのは僕なのに、君が謝ることなんて無いのに。そう思うけど、言葉が出てこない。なんて言えば伝わるのだろう? 僕はふたたび途方にくれて達哉を見た。
もしかして、俺が思ってることが淳に伝わらなかったように、淳も俺に伝えたいことが上手く伝えられなかったんじゃないか?
ひょっとして、僕が達哉に僕の気持ちを判ってもらえなかったように、僕も達哉の事判ってなかったんじゃないだろうか?
◆◆◆
淳が途方にくれた目で俺を見ている。言いたい事はたくさんあるのに、伝えられないもどかしい思いにどうすれば良いのか判らないと言った表情だ。俺にも経験があるからその想いは良くわかったけど、俺もどう答えてやれば良いのか判らない
俺たちは一緒だ。俺が淳に俺だけに優しくして欲しいと思ってるのが上手く伝えられなかったように、淳もなにかを俺に上手く伝えられなかった。不器用な俺では言葉だけでは追いつかない。どんな方法で俺たちは気持ちを伝え合えばいいのだろう?ほかにどんな方法があるのだろう? 俺は無い知恵を必死になって絞った。
「あ……」
俺がそっと淳の細い体を押し倒すと、淳が小さな声を出した。俺はバカだし、なに言って良いか判らないから、せめて優しくしてやりたいと思う。言葉だけじゃなく態度で、行為で少しは俺の気持ちが淳に伝わるかもしれない。残念ながら俺はこんな方法しか今は思いつかない。一人よがりかもれないが。いや、単なるやりたがりかも。でも、淳が欲しいって言うのは、俺の純粋な気持ちだ。
「俺、間違ってるかもしれないから、嫌なら嫌だって、言えよ……」
そう言って淳にキスをする。かすかに開いた淳の唇の隙間から、自分の舌をねじ込み、遠慮がちな淳の舌に絡ませる。お前が好きだ。とても、とても。だからキスするんだ。淳の事が好きだというそういうキス。
「ん……、ふ」
淳の気持ちよさそうなため息を聞くと、我慢できずに淳のシャツのボタンを急いではずし、少し乱暴に剥ぎ取った。そのまま剥き出しになった真っ白な首筋と鎖骨にキスを落す。淳が欲しい。淳の事をもっと知りたい。だから俺はおまえを抱く。お前はどう思ってるのか俺に教えてくれ。
「イヤ……」
淳が抗議するようにイヤイヤと首を振った。一瞬俺の動きが止まる。また俺は間違った事をしてしまったかと思わず淳の顔を見ると、淳が熱に浮かされたみたいな熱っぽい瞳で俺を見て、あえぐように囁いた。
「達哉も、脱いで……」
俺はかすかに笑うと、淳の望み通りにしてやった。
達哉が一気にシャツを脱ぐと、僕のとは違うたくましくて少し日に焼けた体が見えた。僕だけ脱ぐのは不公平な感じがしたし、僕も達哉のからだに触れたかった。ベッドに押し倒されたまま、手を伸ばして達哉の胸に触れる。達哉の肌触りが指先に心地良い。僕のとは違うたくましい感触に少しため息をつくと、達哉が少し笑って僕に覆い被さってきた。達哉が僕を欲しがってる。僕の事を知りたいのかい? 僕ともっと仲良くなりたいのかい?
もしかしたら達哉の一つ一つの行為に達哉の想いがこめられてるんじゃないかなぁ…と漠然と思った。もちろん僕の行為にも僕の想いはこめられているわけで…。
僕も達哉の背中に手を回す。僕も君のことが欲しい。これはそういう意味なんだよ?
君が好きだよ、とても。
そう思うと止まらなくて、僕のほうからいきなり達哉にキスをした。さっき君がしてくれたみたいに。君のことが大好きだから僕は君にキスをするんだ。
「判ってる」
名残惜しく唇を離すと、達哉がそう言って軽く僕の唇にキスを返してくれたので、びっくりしてしまった。どうして達哉は僕が言いたい事が判ったのだろう? 何で僕の言いたい事が伝わったんだろう?
「俺も……」
達哉はそう言うと、僕の体のあちこちに音を立ててキスをした。時々悪戯する様に軽く噛み付く。優しく、少し乱暴に、意地悪に、情熱的に、クールに。僕をまさぐる達哉の指、僕の体の隅々まで触れてくる達哉の唇。意地悪で悪戯な達哉の舌。僕に触れる熱い吐息。
達哉も、僕のこと、好き……。
僕は無条件にそう確信した。達哉のキスは僕にそう伝えてくる。僕のことがとても好きで好きでたまらないとそう言っている。キスだけじゃなく、目も、指先も、全身で。僕も君に愛されて嬉しくてたまらないと悲鳴を上げる。やらしい声で、欲しがってる熱っぽい瞳で…。お互いの体を夢中になってむさぼりあって与え合う。達哉の荒い息使い。クールな中に秘められた熱い情熱。抱かれるたびに見つける、僕の知らない達哉……。やがて、達哉の唇がそっと僕の桜色をした突起を咥えた。
「は……、ああぁんッ」
自分でもびっくりするくらいの大きな声が出たので、僕は慌てた。シーツを噛んで声を押し殺す。自分がこんな声を出すなんて知らなかった。達哉は僕の知らない僕を教えてくれる。達哉が僕の敏感な部分に触れるたび、たまらなく恥ずかしい。けど、もっと、もっとして欲しい……。誰にも見せた事のない僕をもっと知って欲しい。でも、こんな気持ち、達哉にしか感じないんだ。
なんだ……、そうか……。僕は納得した。さっきまで僕は達哉に自分の気持ちを伝えたくても言葉が出てこなかった。でも、僕の気持ちを伝える方法は言葉一つじゃない。こうやって体を重ねても僕の気持ちは達哉に伝わってる。達哉の優しいしぐさの中に、僕を好きだという想いはたくさん詰まっている。達哉はそれを知っていたんだ、きっと。
僕はそう思って、達哉を抱きしめた。今、僕たちは同じ用にお互いの事を想っていて、それを伝えようとしている。言葉とはまた別の方法で想いを伝えあってるんだ。
そう、想いを伝える方法は、一つじゃないんだ……。
淳の細い体を組み敷いて抱くたびに、淳が近くになったと感じる。肉体的なだけじゃなく、精神的にもだ。俺の知らない俺を見つけ、淳の新たな一面を見つける。別々の人間である俺たちが分かり合うには、言葉一つじゃ足りない。不器用な俺の言い訳かもしれないが、言葉じゃなく、態度や色々な事で伝わる気持ちもきっとあるんじゃないかと思う。優しくしてあげたい気持ちが、やさしくしてやる事で伝わるんじゃないかと思う。言葉はもちろん重要な一つの方法だ、でも……。
いくら達哉のことが好きで抱き合っても、僕たちの間は皮膚で隔てられて本当に一つになる事なんかできない。でも、好きだからキスしたいと思えば、きっとその好きだという思いはキスで伝わると達哉は僕に教えてくれた。僕が達哉を好きだと伝えるように、達哉に僕が好きだと伝わるように。もちろん、その逆も。お互いの気持ちを伝え合う方法は一つじゃない、そうやってお互い近づく事はきっとできる。別々の人間の気持ちを伝えあうなんてなんて難しいんだろう。でも……。
俺達の方法は一つじゃない。二人でそれを捜していこう。
君となら、それができる気がする。
ENDE
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