Killer Queen










 エンヤは嫌いだが、ビョークは好き。

 ビートルズよりもクィーンが好き。

 ナマイキにも、レディオヘッドを聞いているかと思えば、オアシスを口ずさんでいる。

 ハイドンはあまり好きじゃない。ストラヴィンスキーとモーツアルトは大好き、マーラーは一番好きのようだ。

 トーマス先生は、よく音楽を聴いていた。

 料理中やアイロンをかけながらでも音楽を鳴らしっぱなしだったものだから、必然一緒にいるアタシもそれらの音楽を強制的に聴かされる事になる。しかもいちいちうるさい注釈付き。

 おかげで興味も無いのにやたら詳しくなった。


「ゴリョ君はキラークィーン、ガンパウダー、ゼラチン」

 リビングで本を読んでいるアタシの周りを、わざとトーマス先生がうろつきながら歌を歌う。

 エプロン姿に、手にはボウル。料理をするならおとなしく台所に居ればいいものを、いちいちアタシのいるところに来たがる。

「変な替え歌歌わないで下さい!」

 アタシが露骨に顔をしかめて言っても、トーマス先生は懲りない。

「えー、だって私にとって五嶺君はキラークィーンなんだからいいじゃない。ダイナマイトにレーザービームみたいな破壊力で私の心はイチコロ!」

 ……それって、高級娼婦の歌だって言うじゃないか。まぁ本当のことはフレディ・マーキュリーに聞かなきゃ判らないけどねぃ。

  ふざけた返事を返され、アタシは、相手にするだけ無駄だとため息をついた。


「Insatiable in appetite」

 あくなき欲望。

「Wanna try?」

 さぁ、お試しあれ!


 歌いながら泡立てていた生クリームを指で掬い、トーマス先生はアタシに差し出した。

 アタシはしぶしぶ舌を伸ばし、生クリームを舐めとる。

 甘い。

「美味しい?」

「そのへんな歌歌うんなら出てってください」

「判ったよ〜」

 アタシがきっぱりと言うと、トーマス先生は生クリームの入ったボウルを持ったまま残念そうな顔をした。

「I want to be the minority!」

 トーマス先生が気を取り直して次の歌を歌いだしたとたん、アタシは大声を張り上げた。

「ずうずうしい!!!」

「え?」

「先生は、唯一無二の変態の癖に『マイノリティになりたい』なんてずうずうしいにもほどがあります」

 ええ〜〜。とトーマス先生は抗議の声をあげ、アタシの言葉に、大いに傷付いた。というような顔をして見せた。

「私は、歌を歌う事も許されないんだね」

 あまり不満そうでも無くそう言うと、トーマス先生はキッチンに消えた。

 かと思うと、すぐに戻って来る。

「さて五嶺君、私のケーキはオーブンの中に入り、あと四十分後に焼きあがります。ケーキが焼きあがるまで、先生と運動しませんか?」

「いいですけど、見返りは?」

「見返りを要求するのかい?」

 トーマス先生はわざとらしく聞き返す。アタシは本から目線を外し、ちらっとトーマス先生を見て言った。

「アタシは物質社会に住む物質主義の男の子なので」

「おっ、マテリアルガールならぬマテリアル五嶺君だね? マドンナで返してくるとは五嶺君もやるね!」

 妙に嬉しそうなトーマス先生の顔。嫌いなのに、喜ばせると判って言ってしまうのはなぜだろうかねぃ。

「ってことは、私に利用価値が無くなったらポイなんだね。酷いなぁ」

 酷い。と言いながら、その口調は嬉しそうだ。マゾなのかねぃ。

「五嶺君の苦手な、第二言語の補習でどうかな? 実習室も使わせてあげる」

 トーマス先生の言葉に、アタシは少し考え込んだ。テストも近い。悪くない申し出だ。

「それでいいです」

「契約成立!」

 頷くと、トーマス先生がぱちんと指を鳴らして飛び上がった。




                                               終




20070914 UP

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