暗闇愛猫
閉じている瞼の裏が急にうっすら明るくなり、アタシは目を覚ました。
寝所の襖が細く開けられて、そこから満月の光がアタシの部屋に差し込んできたのだろうと想像する。
「みゃぁ……」と猫の鳴き声がアタシの耳に入った。
夢うつつの中、手を出して、布団をぽんぽんと軽く叩きながら「おいで」と声をかける。
こんな夜中に布団に入りたがるのは、どこの甘えんぼだろうかねぃ。
足元から、ごそごそと猫が入り込んでくる。
アタシは布団の中でいつものように手を伸ばし、猫が小さな頭を擦り付けてくるのを待った。
アタシの手に触れたのは、滑らかな毛皮でも、ちくちくしたひげでもなく、湿った舌。
指先をぺろっと舐められ、思わず、んっと小さく声を上げる。
アタシの布団に入ってきた猫は、左側を下にして横向きに寝ているアタシに向かい合ってぴったりとくっついた。
ぬくいねぃ……。
うとうとと再び眠りに落ちる瞬間に、アタシは猫がやたらとでかいことに気がついた。
ずいぶんとでぶい猫だねぃ。化け猫かぃ?
でもまあいい。眠い。
すうっと眠りに落ちようとしたアタシの寝巻きの紐が解かれ、肌をつうと何かが撫でる。
暖かいものが、すっぽりとアタシの両方の乳房を包み込んでいる。
なに……?
その暖かいものが、誰かの手だと気がつくのに少しかかった。
その手は、しばらくアタシの乳房を包み込んでじっとしていたが、やがてそれだけでは飽き足らなくなってきたのか、やわやわとアタシの胸をもみはじめたのだ。
「あ……ん」
アタシの口から、鼻にかかった甘い喘ぎ声があがる。
こんなやらしいことをする猫を飼った覚えは無い。
眠くて、その手が誰なのか確かめるのも、振り払うのも面倒だった。
それに気持ち良かったしねぃ。
アタシが抵抗しないので大胆になったのか、ぬる……と乳首を舐められ、びくっと体をふるわせる。
「あああっ」
胸に吸い付かれ、堪えきれずに思わず声を出した。
たしか小さな子猫はいたはずだが、母猫とアタシを間違えて吸い付く訳もあるまいし。
「誰だぃ?」
アタシの寝ぼけた問いかけに、くりっと乳首をひねられ、思わずびくっと腰が浮き上がる。
「影千代?」
一番あまえんぼな愛猫の名を呼ぶが、返事は無い。
「桜花かぃ? 彩女?」
アタシの飼っている猫の名を順繰りに呼ぶが、返事は無い。
「じゃあ誰だぃ?」
「……スです」
そんな猫は飼った覚えないねぃ……。
アタシの寝巻きの胸元はすっかりはだけさせられている。
目を閉じているから判らないが、胸も露ないやらしい姿のはずだ。
ぺちゃ……と知らない猫がアタシの胸をしつこく舐める。
目を閉じたまま手を伸ばすと、丸っこい頬やふわふわとしたねこっ毛に触れた。
そうこうしているうちに、アタシのお尻のまろみを楽しむように撫でていた手が、くちゅっと足の間に指を入れる。
すでに濡れていたアタシのそこを、指がくちゅくちゅと愛撫する。
眠い……けど、入れて欲しいねぃ。
夢うつつのまま、ねだる様に腰をかすかに上げた。まるでアタシが、交尾をねだる雌猫にでもなったみたいに。
アタシが腰を上げたもんだから、中に入ってた指が、ぬる……ともっと奥へ飲み込まれる。
気持ち良いねぃ。
指を引き抜かれ、「あん」とアタシは小さな声を上げた。眉をひそめ、もっと欲しいのにと不満を表す。
横向きに寝ていたアタシは、やや乱暴に布団の上にうつぶせに押し付けられた。
うつぶせのまま、寝巻きの裾をめくり上げられた。冷たい夜の空気を、むきだしの腰から下、尻や足に感じる。足を軽く開かされ、腹の下に手を回されて、ぐいと腰を持ち上げられる。
「ん……」
顔を枕に埋めたまま、四つんばいの格好で尻を高く上げさせられた。その上、指で恥ずかしいところを左右に開かれる。
ぴちゃっと舌がそこを舐め、びくっと震える。
ぴちゃぴちゃと舐められ、指を入れられ、枕に顔を押し付けながら、気持ちよくてくぐもった声が漏れる。
やがて、ぬる……とアタシの入り口を熱くて滑るものが擦り、にゅぷ……と狭い入り口の中からアタシの中に何かが入ってくる。
うふふふふ。と思わず歓んで笑ってしまった。
熱くて、硬い……。
だってきもちいいんだよぅ。
「ア……」
奥まで、入って、く、る。
眉根を寄せ、ぎゅうとシーツが皺になるくらい掴んだ。
アタシの敏感な中を擦りながら、ずうっと欲しかった、たくましいそれが入ってくる。長く擦られるのが凄く気持ち良い。
後ろから貫かれ、アタシは思わず髪を振り乱して感じてしまう。
あん、すごく、すっごくきもちいいよぅ。
ずずっ、ずずっと、ゆっくりと、でも焦らすようにながーく、アタシの中に熱いものが出たり入ったりしている。
気持ちよくてたまらなくて、思わず発情した猫のように高い声をあげる。
自分の声があまりにもやらしくて、媚びてると言っても良いほど甘い声なので驚いたが、眠くて気持ちよくて、そんなことどうでもいい。
むしろ、アタシはそんな声を上げる自分を楽しんでいた。
意識してやらしくて甘い声を思う存分あげて、腰を振る。
きもちいい。きもちいい、凄くきもちいい。
アタシが腰を振るのにあわせてずんずんと突かれ、アタシは涙まで流して快楽をむさぼった。
「あっ、きもちいいよぅ、あっ、んっ、もっとっ、あんっ! エビスっ!」
ああ、なんだそうか……エビスか。
アタシは、自分の叫び声ではっと気がついた。
自分ではそう言ったつもりだったが、眠くて眠くてしょうがなかったので、多分実際は何を言ってるのか判らないもごもごとした声だっただろう。
猫以外に、夜中アタシの布団にもぐりこんで来ていい奴はこいつしかいないんだった。
「ふぁっ、イく、あん、イク」
イく、イく、と馬鹿のように繰り返した後、アタシは尻を高く上げて、もっとエビス(たぶん)を中へ飲み込み、「あああぁぁっつ!」と叫んでびくんびくんと痙攣した。
きゅう……とアタシの肉がエビスを包み込んで締め付ける。
それでまたアタシがイく。ほっといても、エビスのが中に入ってるだけでイきまくる。
中から引き抜かれて、ようやくアタシは開放された。ずるずると、四つんばいからうつぶせになり、大きなため息をつく。
ぐったりと荒い息をついていたアタシの半身をぐいと起こされる。
アタシの片足が持ち上げられて、そいつの肩にかけられる。今度は体を横にした姿勢でえぐられる。
アタシ、この体位も好きなんだよねぃ。結構深く入ってくるから。
浅く突っついたかと思うと、今度は熱くて硬いものが奥まで入りこむ。緩急をつけた責めに、アタシは身をくねらせる。
「あっ、きもちいいっ! 奥に当たってるよぅ」
奥を突っつかれるたびに、信じられないほど気持ちよくて善がり狂う。
一番最初に抱かれた時は、中に入れられて気持ち良いとは言ってもこんなものかぃ。と思ってたアタシがこんな奥まで感じるようになっちまったとは、アタシの体もずいぶんと淫乱になったもんだ。
エビスの肉の味を覚えたアタシの体は、エビスが欲しいと疼く。エビスが何度やっても飽きもせず、隙あらばアタシの上に乗っかるもんだから、アタシの体はもっと感じやすく貪欲になる。
まぁ、悪循環というか、幸せというか。
アタシも好きなほうだからいいんだけどねぃ……。
寝ぼけた頭のまま、あんあん声を上げて、エビスをむさぼる。
今から思えば、猫の鳴き声かと思ったのは、エビスが小さくアタシを呼んだ声だったんだろうか。
エビスじゃなかったらどうしよう……と思わないでもなかったが、まぁ九割エビスだろう。もし残りの一割だったらどうするかは眠いので明日考える。
夢うつつのまま善がった声をあげ、本能のままに腰を振って、涎を流して歓ぶアタシの姿はさぞいやらしかったろう。
「あぁぁぁあぁぁっつ!」
一度絶頂を迎えた、敏感ななかを奥まで突きまくられ、アタシは再度背を仰け反らせた。
下腹部から、まるで押し寄せる津波のように快感が全身に広がってゆく。
頭が真っ白になるほどきもちいい。
「あはぁっ、あっ、んっ、んっ!!」
びくびくと体が痙攣する。快楽が快楽を呼び、何度も何度もイく。ああ、なんて気持ちいいんだろうねぃ。
しばらくしてようやく快感の波が引き、アタシはすっかり満足すると、どっと眠気が襲ってきた。イくと何で眠くなるのだろうか、不思議だねぃ。
エビスには悪いけど(本当はぜんぜん悪いとは思っていない)、イきまくって満足したアタシはエビスをほっといてさっさと寝た。まだエビスが中に入っていたけど、構わず寝た。引き抜く時だけ気持ちよくて、「あん」と声を上げたが、あとは記憶に無い。
そういやアイツちゃんとイったんだだろうかねぃ?
朝目が覚めると、アタシは布団に一人だった。
きちんと寝巻きを身に付けてたし、夜具も乱れておらず、体も綺麗だったので、昨日の事は夢だったのかねぃ……。と首をかしげた。
いやまさか……。そんな馬鹿な。
昨日の余韻で体の奥が疼くのだけれど、それ以外は、昨日起こった出来事を示すものが何も無い。
アタシを起こしに来たエビスも何時も通りで何も言わず、「エビスお前、昨日アタシの布団に入り込んできたかぃ?」とも聞きづらい。やらしい夢を見たか、誰とやったと思ってんだって話になっちまう。
エビスが、じっと見ているアタシに気がつき、「どうしたんですか?」と不思議そうな顔で聞いてくる。別に。と答えて、アタシは布団から出た。
狐に化かされたような気分のままで朝風呂に入る。寝巻きを足元へ落とし、鏡の前に立つと、ふと目に飛び込む赤。
「あ……」
白い胸元に、鮮やかな赤いあざ。
やっぱり夢じゃない。
「エビス!」
呼びつけると、外で「へい」と声がした。
風呂場の中へ呼びつけ、バスタオルを体に巻いた姿で、赤いあざを指で指す。
「これ、お前だろぃ」
アタシが言うと、あからさまに、エビスは「しまった」という顔をした。
「猫じゃないですか」
エビスはそう言って目をそらした。
「やったのは猫じゃなくてたぬきだろ? ええ? 隠ぺい工作なんかしやがって、あんな事されて夢でしたで誤魔化せる訳がないだろぃ! やり方が姑息なんだよお前は!」
アタシに耳を引っ張られ、「あいてててて」とエビスが悲鳴を上げる。
「五嶺様だって、ちゃんと俺って判ってました!? 無防備すぎですよ!」
真っ赤になった耳を押さえたエビスが生意気に反撃に出る。
「五嶺様が、わりといい加減で、わりと可愛いってみんなにばれたら、俺以外にも襲われちゃうに決まってるじゃないですか!」
「じゃ、その秘密は墓まで持ってけ!」
「俺と五嶺様のこと、隠さないで良くなったので、もう皆に自慢しちゃいました!」
エビスは、妙に威張って言い放った。
「ヘンなことされそうになったら、ちゃんと俺かどうか確認してくださいよ! めんどくさがらずに。絶対ですよ!!」
「なんで夜這いされたアタシが夜這いにきたお前に説教されなきゃいけないんだ!」
「五嶺様がいいって言ったんじゃないですかぁ! 『おいで』って誘ったのは五嶺様のほうですよ!!」
「猫かと思ったんだよ!」
アタシが言うと、心底羨ましそうな目で、エビスがポツリと呟く。
「猫は良いなぁ、五嶺様の布団に入れて」
その声があまりにも本気だったので、アタシは呆れた。他所様に聞かれたら、まるでアタシがエビスの事を愛してやってないと思われるような台詞だ。
「お前……、猫羨ましがってどうする」
なんだか、「子供にご飯をあげない親」に対する印象に似た、「エビスに愛をやらないアタシ」にされた気持ちだ。
「ですけど……」
「……そんなに羨ましいなら、お前も入ってくれば良いだろぃ」
その時の気分次第では蹴り出すがねぃ。
「いいんですかっ!」
アタシの言葉に、予想以上にぱっと顔を輝かせるエビス。嬉しそうな顔でもじもじしながら、アタシの顔を上目遣いで見る。
「今夜も入ってきて良いですか?」
「疲れてなかったらねぃ」
「あ、あの、しなくても一緒に寝るだけで良いです。もちろんお疲れの時は遠慮いたします」
やらしい事もしないで一緒に寝て何が楽しいってんだぃ。と意地悪く口に出そうと思ったが、エビスが余りにも嬉しそうなので、脱力して止めた。
必死なエビスに、アタシは、呆れたような、感心したような気持ちで口を開いた。
「お前はほんとにアタシの事が好きなんだねぃ」
「すっ、好きで悪いんですか!」
エビスが真っ赤になり、そう言った後さっと耳を塞いだ。
「なんだぃ?」
「どうせ気持ち悪いとかうざいとか言うんでしょう? 聞きたくないので耳を塞ぎます」
「…………」
もの凄く冷たい目で見てやると、エビスがあからさまに怯えて、アタシに虚勢を張って吼えた。
「いっ、言うんなら早く言って下さい」
このクズめ……。誰に向かってもの言ってると思ってんだぃ。
エビスがそんな事を言うもんだから、アタシの中で、こいつを苛めてやりたいという気持ちがメラメラと燃え上がる。豚の分際でアタシを挑発しやがって。ああ、うぜぇ、うぜえんだよこの豚がっ!
「うざいんだよこの豚! 殺されてぇのか!」
望み通り罵ってやり、ついでに蹴飛ばして踏んづけてやった。体に簡単に巻きつけていただけのバスタオルがはらりと下に落ちたが、そのまま、素っ裸でねぃ。
口の中にアタシの足のつま先を突っ込まれながらアタシを見上げるエビスの恐怖にゆがんだ顔が面白かったので、ついエビス苛めに熱中してしまい、危うく朝一の執行に遅れるところだったよ。
その夜の事。
「影千代っ! その場所を俺に譲れ!!! 頼む譲ってくれ、この通り!!」
「フーッ!」
アタシの布団の前で、猫に土下座するエビス。怒って毛を逆立てる猫。
「どっちでも良いから早くしろぃ。アタシは眠いんだよ」
さっさと布団にもぐりこんだアタシはそう言って、アタシと同衾する権利を争う一人と一匹に背を向け、目を閉じた。
終
20061117 UP
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