今日のエビス 第二条 
番外編(五嶺様&エビスの子供捏造ネタ)







 アタシの名前は五嶺陀喜尼丸。

 母は魔法律界の女王様、生き写しのようなアタシはその一粒種。

 女の身で五嶺家を継ぐべく男名を与えられ、偉大なる母と同じ道を歩むべく日々精進している。

 執行人試験を次の日に控えた夜のこと、アタシは母上の居室に呼ばれ、正座して手を付き、深々と頭を下げていた。

「お呼びですか、母上」

 母上は上座に座り、父上は部屋の隅に控えている。我が家のいつもの光景だ。

 母上は父上をドブから拾ってきたらしい。

 「お前は橋の下に捨てられてたのをアタシが拾ってきた」だの、「お前はアタシが一人で作った子」だのという母上のヨタ話の一つかと思ったら、本当だと聞いて驚いた。それ以来アタシも気をつけてドブ川を見ているけれど、父上のような男は落ちていない。母上はまこと運が良い。

「陀喜尼、執行人試験の事なんだけどねぃ」

 母上は、口元を扇で隠しながら、ちらとアタシに視線を投げかけた。

 ああ、嫌な予感がする。母上があんな蛇のような目をする時は、ろくな事が無い。

「是が非でもお前には執行人になってもらわないといけない事になった。これは五嶺の頭首としての命令だ。陀喜尼、受かれよ」

「は、はぁ……? もちろんそのつもりですが」

 執行人試験前の娘を励ますには、変な台詞だ。とアタシは思ったら、案の定、母上は次にとんでもないことを仰った。

「アタシは家督をお前に譲り隠居するからねぃ。頭首が執行人試験落ちただなんてさまにならないよ」

「母上!」

 アタシは、母上の急なお言葉に絶句した。

「アタシは今のお前よりずっと若い時から五嶺の頭首の勤めを果たしてきたんだ。お前にできない事は無いだろぅ?」

「いえっ、無理です、無理です母上」

 慌てて首を振るが、母上はふんと鼻で笑っただけだった。

「心配せずとも、エビスを貸してやる。お前が慣れるまではアタシも手伝ってやるから」

 ああ、泣きたい。明日試験だと言うのに、何を言い出すのだ母上は。嫌がらせか?

「だが、執行だけはお前にやってもらわないとねぃ」

 なぜ?

 半泣きのアタシが思わず顔を上げる。いくら頭首を退くとはいえ、執行なら、なにも若輩のアタシがやらずとも、魔法律界でも名執行人と名高い母上が今まで通りやればいいではないか。

「そこなエビスが」

 母上は、ぴしっと扇を閉じて、横柄な態度で父上を指した。

 母上は今でも父上の事をそう呼ぶ。

「孕み腹での執行は止めてくれと泣いて頼むのでねぃ」

「えっ」

 もう何が起こっても驚かないと思っていたアタシだが、母上は更に上を行っていた。

「喜べ陀喜尼。お前に兄弟ができるんだよ」

 ぽんと軽く腹を叩いて、母上はにっこり笑ってそう仰る。

 母上の美貌は年を感じさせない。何も知らぬ者から、年の離れたアタシの姉だと思われることもしばしばだ。だが、実際は四十越している。

「あ、アタシに弟ができるって事は、母上、ご懐妊されたのですか?」

 思わず動揺して言葉が乱れる。

 今日はなんて日だろう。明日試験だって知ってるだろこの女! と言いたいが、そんな事恐ろしくていえない。

 まさか、まさか、軽く干支が一回り以上離れた兄弟が出来るなんて。

「陀喜尼、それは違うねぃ。弟も、妹もだよ」

「と、ということは、母上、双子……?」

「いや、三つ子」

 今までずーっと黙っていた父上が口を挟んだ。

 三つ子って、三つ子って……。

 そんな、莫迦な……。

「子供が欲しいと冗談で言ったら、この男、本気で当ててきやがってねぃ」

「ご、五嶺様、思春期の娘の前でそんな言い方しなくてもいいじゃないですか!」

 母上のお言葉に父上は慌てて、おろおろとアタシを見る。

「だ、陀喜尼さん、お父さんの事嫌いにならないでね?」

 お父様の事は大好きですが、今は言葉もありません。陀喜尼は口もききたくありません。

「固まってますよ、五嶺様」

 そりゃぁ固まります。

「執行人試験の前にトラブルが起きるのはうちの家風かねぃ?」

 そう仰ってぱんっと扇を広げ、固まってるアタシと、おろおろしている父上をよそに、母上だけが機嫌良さそうに笑った。






 

20060721 UP

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