今日のエビス 第六条








「引渡しは以上でいいかねぃ?」

 五嶺様が、六氷と草野にそう言った。

 五嶺間法律事務所の百番目の拠点だった場所の引渡し。ろくに読みもせず書類にサインをする六氷の側で、草野が感極まったようにうるうるしている。

「ヒッヒ。骨折り損のくたびれもうけだったな」

 六氷が嫌味を言うと、五嶺様がふて腐れた。

「うるさいねぃ。お前らの事務所なんかこうしてやる」

 五嶺様は言うなり、取り出した筆ペンで壁にさらさらと落書きしだす。


 Eじゃん

 Gじゃん

 最高じゃん


 ゲェ、五嶺様それは……。

 この期に及んでそんなケンカを売らなくても。


 俺は焦って六氷を見た。

 案の定、ものすごい達筆のその文字を見て、六氷の額にぴきぴきっと青筋が。

 ああ、ヤバイと思った瞬間。

「へー、いかしたフレーズだね!」

 草野の能天気な声が事務所に響き渡る。ていうかそれマジで言ってるのかよ草野!

「僕にもなにか書いてください!」

 やはりさっきの言葉は本気だったらしく、草野は色紙を差し出しながらにっこり笑って五嶺様にそう言った。

 後ろの六氷の顔がヤバイ。本気で殺す目だ。

「じゃぁ、事務所再開を祝して、二升五合て書いてあげようかねぃ」

どういう意味なんですか?」

「ますますはんじょうって意味だよ、草野」

 にっこり笑って、色紙を渡す五嶺様。

 いらねぇ!!

 俺が内心で思いっきり突っ込んだそれを、草野はいそいそと額に入れた。

 ええー、それ飾るのそれ!?

「わー、すごーい、かっこいい。よかったねムヒョ!」

 空気を読まない草野のはしゃいだ声。心から草野が草野でよかったと思った。

「おめぇ、コロス!!」

「えっなんでさムヒョー!!」

 予想通り、六氷の怒りは五嶺様から草野へ矛先が変わった。

 俺達にタイミングよくあの二人が夫婦喧嘩をはじめたのを良いことに、俺は五嶺様の手を引っ張って、挨拶もそこそこに急いで事務所を後にする。

 五嶺様がこれ以上何かしでかす前に……。


                                               終

 

20060705 UP

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