陰陽蝶の小蝶さんとコラボさせていただきました。
MLS学園祭着物五嶺様イラストから妄想です。
イラストの前後の時間はこんなだったんじゃないかな〜? と妄想。
とにかく振袖姿の五嶺様がお美しいのです。
五嶺、トーマス、今井さんの微妙な関係にイロイロな妄想がわきます!

そして完全捏造な続きも……。

小蝶さん、ありがとうございました!



















「良い生地だね、五嶺君。意匠も素晴らしいし、刺繍も手が込んでて綺麗だ」

 五嶺の持ってきた青い振袖を広げ、トーマスが感心したように呟いた。

「そうですか?」

「古いけれど、とても大事にしてたんだね。今はもうこんな生地ないよ、重いけどね」

 五嶺にしてみれば、学園祭に使う振袖を持って来いというので、使用人に手渡されたものをそのまま持ってきたのだが、トーマスはえらく感心している。

「半襟は赤にしよう、帯はどうしようか? これもまたいい帯だね、どうせだから変わり結びにしよう。それにこの帯留、今じゃもうこんなに大きくて綺麗なサファイアは手に入らないよ。良い物を集めるのはもちろんだが、きちんと綺麗に保管しているというところがまた素晴らしい。そういうお家で育ったんだね、五嶺君は。君の家は本当に凄いよ。一度見に行ってみたいなぁ」

「……なんでもいいから早くしてください」

 女物の襦袢を着た五嶺が冷たい目でせかすと、トーマスはちょっと寂しそうな顔をして、五嶺に振袖の袖を通させる。

「五嶺君はおうとつが無いから着付けやすいなぁ。女性だとこうはいかないよ。それに女が着るより君のほうがずっと似合ってる」

「はぁ」

 心からどうでもいいといった顔をして、五嶺は鏡の中の自分を見つめる。

 頬に、赤い化粧を施した自分の顔。

 伏見稲荷で見た白狐を思い出させる模様。

 MLSの学園祭で、五嶺のクラスはお化け屋敷をする事になったのだが、五嶺はトーマスに強制的に妖狐を押し付けられたのだ。

「すごく綺麗だよ、五嶺君」

 青い振袖を着た五嶺の姿をうっとりと見つめてトーマスが言う。どう考えても、振袖姿の五嶺を見たかったから。という理由で職権乱用したに違いない。

 しかし、たしかに、深い海のような青い振袖を身に付けた五嶺は美しかった。

 少女のような優しげな顔をしていながら、少年の凛々しさを併せ持つ。大きな瞳には、吸い込まれそうな魔力があった。

 まだ幼さが残る顔に差された赤い紅が、口元の黒子と共に妖艶な女を感じさせ、そのアンバランスさが、五嶺に妖しい魅力を加えている。

「先生、そんな事はどうでもいいので、手を動かしてください」

 綺麗な顔で冷たく言われ、トーマスはしゅんとうなだれた。

 自分の姿なんか、まったくもって百パーセント興味ない。と五嶺の綺麗な顔が告げている。

「……五嶺君は美についてもうちょっと考えるべきだと思うな」

 せめて微笑めとは言わないけど、少しは興味もって欲しいなぁ。

 そう思いながらもめげずに着付けを続ける。

 あの五嶺が、トーマスの前でおとなしくしているというだけで奇跡なのだ。

 後ろから抱きしめるようにして腰紐をしめ、さりげなく髪の匂いを胸いっぱい吸い込む。

 襟を整えるふりをして首筋に触れると、びくっと体を震わせた。

「襟はもっと抜いても良い? 五嶺君の襟足綺麗だから、大きく広げて花魁みたいにしてしまおう。妖狐なんだからいいよね、おもいっきり色っぽくしよう」

「……かまいません。先生の好きにしてください。どうせ何を言っても、今日一日アタシは先生の玩具なんだから」

 自覚があるのか、ないのか、諦めきった口調で五嶺はそう言って、ちらとトーマスを見上げる。

 トーマスは小さく肩をすくめ、口の中だけで小さく呟く。

「そういう台詞、別の場所で聞きたいね」

 たとえば二人きりの倉庫、または秘密のコレクションルームで。

 ぐいと首の後ろを引き、襟足を露にする。背中や肩が見えそうなほど広げ、「舞妓みたいに白塗りにして、白狐にすればよかったなぁ」と呟いた。

「お化け屋敷だなんて、子供っぽいこと、よく考えましたね」

 珍しく五嶺のほうからトーマスに話しかける。呆れたような五嶺の口調に、ふふふと得意そうにトーマスが笑った。

「お化け屋敷というか、私のイメージでは見世物小屋なんだけどね? 見世物小屋だと駄目だというから、お化け屋敷にしたまでだよ。人ならぬ妖(あやかし)を飾る秘宝館さ」

「見世物小屋?」

 あまり聞いた事の無い単語に五嶺が眉をひそめると、トーマスが意外そうな顔をした。

「蛇女とか、タコ娘とか知らない? 秘宝館と並ぶ昭和のエロ、グロ、ナンセンスの極みだよ。私はそういうサイドショウが大好きでねぇ」

「……知りません」

 五嶺が言うと、トーマスは独特の口調で、楽しそうに口上を述べだした。

「さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい、親の因果が子に報いとはこのことだ〜」

 鼻から口へ蛇を通し、しまいにゃむしゃむしゃと食ってしまう蛇女、短い足で全裸になって立ち上がるタコ娘、蟹男に人間ポンプ、熊女から牛女まで、おどおどろしい口上を述べられ、五嶺の顔がドン引きしているにも関わらず、トーマスは楽しそうに言葉を続ける。

「私が蛇男になって口から火吹いたり蛇食べてもよかったんだけど、駄目だってペイジ先生が……。やっぱり学園祭は生徒達が主役だからね」

 どこかずれた事を言うトーマスに、五嶺は無言で呆れた。

 こいつは、MLSの生徒に一生消えないトラウマを植えつけるつもりか。

 思いっきり冷たい目で見つめるが、トーマスはニコニコ笑っている。







「うん、綺麗だ。玉藻前か、葛葉か」

 振袖の着付けを済ませ、五嶺の姿を見ながらトーマスが満足そうに頷いた。

「五嶺君なら、白面金毛九尾の玉藻前かな?」

 その名なら、五嶺も知っている。中国、天竺、日本をまたにかけ、美女に化けて時の権力者を誑かし、悪逆非道の限りを尽くした大妖怪だ。

「君なら、中国の皇帝もたぶらかせるよ。試してみるといい。ついと流し目で見て、意味ありげに微笑むだけさ」

「トーマス先生」

 コイツの言う事には、根本的な誤りがある。

 そう思って、五嶺が口を開く。

「アタシは男です」

 馬鹿なことを言うな。といった顔をした五嶺の肩を、ぽんとトーマスが叩いた。

「五嶺君」

 君はまだ本当の美を知らない。とでも言いたげなトーマスの顔。

「綺麗な男の子は、女よりずーっと価値があるんだよ?」

「先生の価値基準はどうでもいいです、早くしてください」

「……ウン」

 冷たいよね、五嶺君って。と恨みがましく言われたが、そんなの前からだろう。いい加減に気づけ。と五嶺は内心で悪態をついた。

「……五嶺君が構ってくれないからつまんないな」

 まだぶちぶち文句を言いながら、帯を締めるトーマスに、もっと冷たい言葉をかけてやろうと五嶺が口を開きかけた時、人の気配がした。

 先生、入ります。という聞きなれた声に、五嶺の心拍数があがり、頬がかっと熱くなる。

 今井玲子だ!

「五嶺、もう準備できたか?」

 暗幕を開けて入ってきた少女が、五嶺に声をかけた。印象的な、生き生きとした瞳で見つめられると、五嶺の顔がかすかに赤くなる。

「れ、玲子」

 振袖を着た男なんて、どう思われるだろう。

 今までなんとも思っていなかったのに、その子に見られるのを急に恥かしいと思ったのだ。

「綺麗だなぁ!」

 五嶺の恥らいを知らず、玲子と呼ばれた少女は、まじまじと五嶺の振袖姿を見てにっこりと微笑む。

「今井君は支度を済ませたんだね」

「はい、着慣れない着物だから手間取りましたが」

 トーマスと会話を交わす今井の姿を、気付かれないように五嶺がじっと見る。

 おかっぱに切りそろえた髪が揺れている。はきはきとした口調や、生命力に溢れたキラキラとした目に、健康的で活動的な明るい性格がうかがえる。

 普段は動きやすいズボンだが、今日ばかりは、綺麗な水色の地に、雪輪を染めた着物を着ている。絢爛豪華な五嶺の振袖に比べその着物はだいぶシンプルだけれど、よく似合っていた。

 着物姿、初めて見たねぃ。

 じゃじゃ馬のくせに、あんがい、似合ってるじゃないか。

 ぼーっとそんな事を思って、ふと自分の着物に目を落とし、内心で呟く。

 この振袖、男のアタシが着るより、玲子に着せてやればよかった。

 きっと、そのほうが綺麗だし、玲子も喜んだろうに。

 今井の喜ぶ顔と振袖姿を想像していた五嶺が、はっと今井玲子に見つめられているのに気がつく。

「あ、あんまり見るんじゃないよ……」

「なぜだ?」

 男のくせに振袖なのを気にしている五嶺の気持ちに気がつかず、今井は首をかしげた。

「私より綺麗じゃないか」

「そんな事は無いよぅ!」

「なにムキになってるんだ?」

 今井の首をかしげる角度がますます深くなり、五嶺の頬にかっと朱がさした。

「玲子も、その」

「あ、呼んでる。もうすぐだぞ、急げよ」

 口ごもりながらも五嶺が言いかけた言葉に気がつかず、今井はそう言って、五嶺に背を向けて急いで部屋を出て行く。

 言えなかった……。

 かすかに後悔している五嶺を先ほどからじっと見つめる、ねっとりとした視線。

「五嶺君」

 声をかけられ、はっと顔を上げる。

「そんなに掴むと、皺になるよ」

「あ……」

 トーマスに言われて、自分が振袖の袖の部分をぎゅっと握り締めていた事に初めて気がついた。

 慌てて手を広げると、くしゃくしゃになった青い絹地が手の中から現れる。

「五嶺君の鉄面皮が、揺らいだね」

 トーマスは、かすかに意地の悪い口調で言った。

「私の価値基準はどうでもよくても、今井君の価値基準は気になるみたいだね」

 にやにやと嫌な笑いを浮かべ、からかうように言うトーマスの言葉に、五嶺が表情を消して対抗する。

「君は、私が見た男の中でも、女の中でも、一番綺麗だよ、五嶺君」

 まるで歌うように言って、トーマスは五嶺の顔を見て邪悪な笑みを浮かべた。

「男の五嶺君がそんなに綺麗だと、言いにくいよね」

 くっくっくと、おかしそうに肩を振るわせ笑う。

 トーマスの言葉と態度に、透明な水の中に墨を落としたように、嫌な気持ちがじわじわと広がっていく。馬鹿にされたようで不愉快になり、今井への気持ちが汚されたような気がした。

「今井君のほうが、綺麗だよって」

 トーマスの言葉を聞いても、五嶺は無表情で瞬きする。

 トーマスを拒否するその冷たい無表情は、何者をも寄せ付けぬ厳しさがあった。

「さ、尻尾と耳もつけ終わった。白面金毛九尾の狐の完成だ」

 明るい声でトーマスは言って、にっこりと五嶺に微笑んだ。

 「ありがとうございます」と棒読みで言う、にこりとも微笑まぬ、五嶺の顔。

 美しい顔は感情を浮かべず、トーマスを見下すように目だけが冷たく光っている。


 美しい孤独。


 五嶺の冷たく光る目を見て、トーマスの背筋に、ぞくぞくと快感が走る。


 今井君の前では、生身の人間だったのにね。

 今の君は、人間を捨てた本当の妖のよう。

 耳など無くても、九つの尻尾など無くてもね。

 残酷で、孤独で、美しい。

 君の本性は、それなんだ。

 五嶺の見えぬところで、トーマスが、にやりと笑った。


「支度は終わりだ。さぁ、行っておいで」

 耳元でささやき、トーマスが軽く背を押すと、五嶺が歩き出した。

 開け放った窓からの風にふわっと振袖の袖が風を孕んで揺れ、振り向きもせず五嶺は教室を出て行く。

「中国の皇帝をも誑かしたお狐さまの神通力は、今井君にも通じるのかな?」

 最後まで厭味たらしく背にむかってかけられたトーマスの言葉を聞く五嶺の顔は、やはり無表情だろうとトーマスは想像して笑った。


 それでいいんだよ、五嶺君。

 トーマスが内心でほくそえむ。

 妖には、妖が相応しい。化け物同士仲良くしようじゃないか。


 生まれたばかりの柔らかい感情を殺そうと、ゆっくりと噛み付き毒を注ぎ込む。

 少しづつ、少しづつ。気付かれないように。致死量の毒を注ぎ込む。

 五嶺君が、早く私に相応しい妖になりますように!


 余計な感情などいらない。

 壊れて、一人になってしまえ。


「その方が君は美しいのだから」


 トーマスの言葉が、五嶺が立ち去った後の空間にうつろに響いた。











Thanks for 陰陽蝶 小蝶さん

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