「あー、先輩たちには世話になったから一応言っとく。俺、明日からまた別のとこ行くから。今まで楽しかったぜぇ」
ボクとケロロ君がピノで買収された日から数日後の放課後。
別れは、唐突に訪れた。
クルル君の言葉に、ボクとケロロ君がクルル君を囲む。
「マジかよクルル!? えー、行くなよ、俺さびしいよ」
ケロロ君は涙ぐんでそう言った。
「俺だって行きたかねぇ……。これでも希望出したり知能テストごまかしてここに長い間居られた方なんだぜぇ……。でも俺様が天才ってのは隠し切れなかった。こんな時ジッサイ子供は無力だよな」
言ってる事はナンだけど、クルル君も辛そうだ。
クルル君は、ここから出て行かなといけなこと前から知ってたのかな?
だから……、ギロロ君との思い出が欲しかったのかな?
「いくなよう〜〜」
ケロロ君は泣いている。ボクも鼻の奥がつんとした。
「ギロロ君には……言った?」
ボクがそう聞くと、クルル君は首を振った。
ぎゅ……と大事そうにギロロ君から貰ったストラップを握り締めている。
「いいや、今からだぜぇ」
「言いなよ、絶対ちゃんとお別れ言いなよ」
ボクはなぜだか必死になってクルル君に言った、
ほんとは大好きだって言っちゃいなよ。
だって、言わなきゃ絶対後悔する。クルル君、あんなにギロロ君のこと好きなのに。ギロロ君に誤解されたままじゃ悲しすぎる。ギロロ君は鈍いんだよ、クルル君のほうからちゃんと言ってあげなきゃ!
「アンタ、ほんっとおせっかいだな」
クルル君は、呆れたような顔でボクにそう言った。でも、その声には、あの時みたいな憎しみがこもっていない。
クルル君は、ボクに、ギロロ君のところに行くと約束してくれた。
ギロロ君に聞いたところによると、クルル君はあの後ちゃんとギロロ君のところに行ったらしい。
けど、『今は子供だからアンタ手放すし、これで許してやるけど、大人になったらこうはいかないから覚悟しておけ』と言われたとギロロ君はショックを受けていた。ギロロ君的には、けっこうクルル君が打ち解けてくれたと思っていたのに、そうじゃなかったと思ったようだ。
「俺は最後の最後まで喧嘩を売られたのか……?」と呆然と呟いたギロロ君を見て、クルル君のギロロ君に対する複雑な思いを知っていただけに、ボクはなんとも言えない気分だった。
クルル君、本当に素直じゃないんだからなぁ……。
大人になってもし再び会えたら、ギロロ君もクルル君の言葉の本当の意味が分かるかもしれない。
それが何なのか、今のところ世界でクルル君しか分からないんだけど。
ボクは、クルル君が前に言ってた「ワンダーウォール」って言葉の意味を調べてみた。いろいろ出てきたけど、ある歌の歌詞が目に留まる。「You're my wonderwall」
その歌の解釈では、こうだった。
「最後に行き着く場所」
それは、きっと、多分……。
クルル君は、来たときと同じくあまりにも唐突にボクたちのクラスを離れた。
クルル君は結局、そのあまりの天才的な頭脳と、性格に難ありということで、訓練所には通わず、特別の英才教育を受けることになったそうだ。
「じゃ、お先」
そう言って、クルル君はクールにボク達とサヨナラした。
ギロロ君は、怒鳴る相手が一人いなくなって少しさびしそうだ。
ケロロ君は、一緒に悪巧みをする悪友がいなくなって、スケールの大きな悪戯ができないと愚痴をこぼしている。
ボクは、蝶を見ていたクルル君の顔を思い出していた。
性格が悪くて、嫌な奴で、ひねくれてて、腹黒で。
でも、ボク達がクルル君の話をするとき、みんなの顔は笑っている。
ENDE
20080807 UP
初出 20060219発行 Keron Attack! Z
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