Somebody told me
秋深まるとある日、アイスクリームショップにて。
アイスクリームのように甘くラブラブなカップルが一組、アイスクリームの冷蔵ケースを覗き込み、ああでもない、こうでもないと議論している。
「軍曹さんは何がいいですかぁ?」
「我輩何にしようかなぁ? ……タママは?」
デートの途中見つけた宇宙人専用アイスクリームショップで、うきうきとした声でケロロにそう言ったタママ。タママほどの情熱をアイスに感じないケロロ。
タママはケロロに話しかけた後すぐ、自分のアイスを選ぶのに夢中になっている。
「ボクは〜、バニラとチョコと、あとええっと、ストロベリーにするですぅ〜」
「そんなに食べるんでありますか?」
「うん!」
ぱぁぁぁっと極上の笑みを浮かべるタママに、ケロロは何も言わず、アイスクリームのケースに視線を移す。
「焼き芋……」
思わず目に留まった季節のフレーバーとやらを呟くと、即隣から警告が飛んでくる。
「焼き芋アイスはだめですぅ」
「ゲ、ゲロ?」
「軍曹さんは、チョコバナナとマカデミアンナッツにするといいですよぉ」
明るい声で下心ありありのせりふを言うタママを、ケロロがじっと見た。
「もしかしてソレって……」
「うん、ボクが食べたいアイスですぅ。ボクのちょっとだけあげますから、軍曹さんのも味見させてくださいねぇ!」
悪びれもせず、にっこりと笑うタママの笑顔にまたケロロは何も言えない。
デートしようと、日曜の朝早くから叩き起こされた。
おかげで、朝寝も、趣味のガンプラ作りもパァ。
腕組んで公園をひたすら歩いて、どんぐりを拾って、ハトにエサをやって、ハトに襲われて、貸しボート屋はシーズンオフで閉まってて。
何がなんだか……なケロロに対し、タママは、終始「楽しいですねぇ〜」とニコニコ笑って、繋いだ手を離そうとしない。
楽しい、何が? ハトに襲われた事がでありますか?
「タママ〜、もうそろそろさ〜」
「軍曹さん、見てぇ、銀杏ですぅ!」
言いかけたケロロの言葉は、足元にあった木の実を指差しケロロに見せながら言うタママの嬉しそうな声にかき消された。
そんな、ニコニコとされると……、言えないであります。
「あ、ああ、ひ、拾っていくでありますか……。炒って食うとンマイんだよね」
先ほど言いかけた言葉を飲み込み、ケロロはそう言い直した。
ケロロの言葉に、タママがにこーっと微笑む。
タママが馬鹿力で銀杏を揺らし、ばらばらと落ちてきた銀杏を、二人でちょこまかと動き回って拾う。いったんやり始めるとけっこう楽しくて、袋いっぱい拾ってしまった。
タママは、他の銀杏拾いの(宇宙)人のために木を揺らし、感謝までされている。
思いがけず銀杏拾いに夢中になっちまったぜ……。
しかしタママ、こんな臭うデートでいいんでありますか?
可愛い顔した小さなケロン人が、姿に似合わず馬鹿力を出す様子にやんやの喝采を浴びているのを見ながら、ケロロは心の中で呟いた。
確かに楽しかった。銀杏拾いもいいんだけど……。
でも、我輩、家に帰ってガンプラ作りたいであります。
「楽しいですねぇ、軍曹さん!」
「ああ、う、うん」
手を洗いながら言うタママの満面の笑顔に押されて、ケロロは思わず頷いた。
「銀杏は超空間に置いておくですぅ〜」
今度こそ、チャンスであります。
「タママ、そろそろ」
「あ、アイスクリーム屋さんですぅ!」
「ゲロ……」
再びタイミングをずらされ、ケロロが言いかけた言葉が宙に浮く。
タママの目線の先には、アイスクリームの移動販売車。ショップの周りに置かれたテーブルで、さまざまな宇宙人たちが楽しそうにアイスを片手に談笑している。
「軍曹さん、買っていい?」
上目遣いで、懇願するようなタママの大きな目。
「帰ろうよ」
の一言がいえない。
もしかして、我輩、流されまくり?
でもね、我輩、嫌な事は我慢しないタイプだし、そんな我輩がそれでもタママの「デート」に付き合ってやってるって事はさ。
「ああ、うん、いいでありますよ……」
また、いいって言っちゃった。
タママがそこまで喜んでるんだから、まいっか。
……ってなっちゃうんだよねえ〜。
ケロロの手を引き、早足で前を行くタママの後姿を見ながら、ケロロがタママに判らないようにため息をついた。
「買ってきましたぁ〜」
フレーバーを選び、お金を払って先に席についていたケロロの元に、両手にアイスクリームを持ってこれ以上ないほど幸せそうな顔をしたタママがやってくる。
ケロロにアイスを手渡すと、タママはさっそく三段重ねのアイスを笑顔でぺろぺろと舐め始める。
タママの赤い舌がれろっとアイスを舐め取るのをじっと見ながら、自分のアイスを舐めていると、タママが急にケロロのほうをじーっと見つめる。
ちょっとだけえちぃ事考えてたのばれたかな〜と思っていると、タママがずずいっとケロロに顔を近づけた。
「軍曹さんここ溶けちゃいますぅ〜。ボクが食べちゃいますねぇ」
そう言って、体を伸ばしてケロロの食べかけのアイスをぺろぺろと舐め始めた。
至近距離で動くタママの舌と恍惚の表情をじーっと見つめてたケロロが、はっとタママの手元のアイスに気がついた。
「タママタママ、溶けてる溶けてる」
「あ、ほんとだ。忙しいですぅ〜」
自分のアイスをぺろぺろして、ケロロのアイスをぺろぺろして、最後には、アイスを舐めるケロロの舌のすぐそばをタママが舐めとる。
忙しく行き来するタママの頭をケロロが軽く小突いた。
「こら、行儀悪いでありますよ!」
「ごめんなさいですぅ〜」
タママが可愛く言って、自分のアイスを差し出す。
「はい、軍曹さん」
え……。とケロロの動きが一瞬止まった。うろたえながら、きょろっと回りすすばやく見回す。
周りには、アイスを口にする宇宙人客がたくさんいる。カップルもいるが、アイスを片手に楽しそうに談笑しているだけだ。
いい年こいてこれはちょっと恥ずかしいであります……。
でも、なぁ……。
せっかく言ってくれてるのに断ったらタママ傷つきそうだし……。
「あ、ありがと」
ぺろ……と遠慮がちにタママのアイスを舐めるケロロを、タママがにこにこと笑って見ている。
「楽しいですねぇ」
大好きなアイスと、大好きな軍曹さん。うっとりとそう言うタママの顔に、急にドキッとした。
もっとそういう顔させたい。
そっか、だから我輩タママに付合ってるんだ……。
「軍曹さんのも欲しいですぅ」
「全部あげるであります」
甘えてねだるタママに、ケロロが残り少なくなってきたアイスを差し出した。
「違うですぅ。軍曹さんと一緒にペロペロしたいんですぅ」
「ちょっとしかないのにそんな事したらみっともないでしょ! 人前で」
そんな公開ディープキスみたいなこととんでもないであります!
ケロロがぴしゃりと言う。
「……はいですぅ」
多少常識が欠けているが、タママに悪気は無いのだ。素直にあきらめたが、しょぼんとした顔でアイスを舐めるタママを、ケロロが横目でちらと見る。
そこまでへこまないでもいいであります。
言い過ぎた……かなぁ?
でもダメな事はダメってちゃんと我輩が言ってあげなきゃいけないであります。
ケロロが悶々としていると、アイスを食べ終わったタママの元気の無い瞳がケロロを見上げた。
「軍曹さん、もっと欲しいですぅ」
「買ってきたら?」
「さっきみたいに軍曹さんのが欲しいんですぅ! 一緒に食べたいんですぅ! 軍曹さんがダメって言うところですぐ止めますからぁ!」
ケロロに拒否されたのがよっぽど悲しかったのか、意地になったように言い張り、泣きそうな顔でケロロを必死に見つめる。
ああ、うう。
そんな顔されたら、ダメ、で、あります……。
「もー、しょうがないでありますな。手も口の回りもべたべたでありますよ、タママ。買っておいてあげるから洗ってくるであります」
負けた……。また言っちゃった。
やはり……、我輩、タママに甘いであります。
「はいですぅ!」
ケロロの言葉に、ぱぁっと満面の笑みを浮かべ、タママが立ち上がる。
近くにある公園のお手洗いへと席を立ったタママの背をからケロロが目線を移すと、ふと隣の席の人と目があう。
「可愛い彼女ですね」
ゲロッ!
何気なく話しかけられた一言に、時が止まる。
「あっ、あー」
どう言おうかと口をパクパクさせていると、何も知らないタママが、堂々と、赤で描かれた淑女ではなく、黒で描かれた紳士のマークの方へ入っていく。
「そ、そういうことなんであります……」
「あ、ああ」
タママを目で追っていた二人が、なんとなくもごもごと会話を交わした。
「いや、でも、かわいいでありますから」
「うん、可愛いですよ」
「……好きなんであります」
タママ本人にも言った事がないのに、ケロロは急に正直に言葉を口に出す。
誤解されたから、言えたのかもしれない。ちゃんと判ってもらわなくちゃ。という妙な気持ちになった
我輩、初対面の人に何を……。
「可愛い彼氏でうらやましいですね」
「あ、ども」
言い直してくれた隣の人と、テレながらぺこんと頭を下げるケロロを見て、戻ってきたタママが不思議そうな顔をした。
ENDE
20051029 UP
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