「そういえばさぁ……」
晴れた日の午後、いつもの実の無いポコペン侵略会議中に、だらけきったケロロが唐突に口を開いた。
「もうすぐドロロの誕生日じゃん?」
「…………そうだったか?」
「忘れてたのギロロ? 酷い奴でありますな」
「う……。貴様は良く覚えてたな」
「いや、昔色々あったからね。あ、っちーやな事まで思い出してきた」
暗い顔でぶつぶつ言い出すケロロに、ギロロの疑惑の瞳が突き刺さる。
一体何をやらかしたんだケロロ……。
その視線を無視して、ケロロが話を続ける。
「罪滅ぼしもかねてさぁ、ドロロに内緒でプレゼントやパーティの準備をこっそりするであります」
「だから何の罪滅ぼしなんだ?」
「……聞くなよ、赤ダルマ」
「ケロロ貴様自分の罪滅ぼしのために我々を巻き込もうとは太い神経してるな」
「固い事言うなよギロロ〜。ギロロだって一つや二つドロロに謝りたい事あるでしょ〜」
「例えば」
そう言って、ケロロが部屋に集結しているギロロ、タママ、クルルをぐるっと見回した。
心当たりのあるらしきギロロとタママが、びくっと体を震わせてケロロを見る。
「忘れてたとか……」
「う……」
部屋の中に、なんとも言えない重苦しい雰囲気が立ち込める。
「って事だから、後の二人も参加ねー!」
こうして強引にドロロ誕生日計画が発動されたのだった。
誕生日の朝、起きてみると部屋の中はいつのまにかパーティ会場……。
周りにはお花やリボン、プレゼントの山。
セリフ「我輩達は君のこと忘れてなかったんだよ?」
小隊の仲間の心憎い誕生日の演出。むせび泣くドロロ。
「素敵な計画でありますなぁ〜」
「早速準備するですぅ」
「く〜っくっくっく」
小隊の皆が想像を膨らませていると、近所のゴミ拾い清掃に参加して送れてきたドロロが会議室のドアを開けて登場した。
「隊長殿、ここにいたでござるか。遅れて申し訳ないでござる……」
「わードロロ見ちゃダメ!!」
「ドロロ先輩入らないで下さいですぅ」
ドロロが部屋に入ってきた途端、タママとケロロがぐいぐいとドロロを部屋に入れまいとドアの外へ押し出そうとする。
「えっなんで? 何でボクだけ仲間外れなのっ!」
「いいから出ていってくださいですぅ!」
「何をしているのか見せるでござる!」
「うるせぇ出ていけって言ってるですぅ!!」
素直に出ていこうとしないドロロに、タママがぷちっと切れた。
「タママァ、インパクトォー!」
「うわっ!」
至近距離のタママの口から容赦なく放たれたタママインパクトを、ドロロが間一髪で避ける。
「ドロロ先輩許してくださいですぅ! ボクだって辛いんですぅ!!」
「辛い割には酷いでありますな、タママ……」
タママがドロロを追い出すのに失敗したのを見て、クルルがずいっと前にでた。
「うせな。お呼びじゃないんだよあんたは」
ドロロを見下すように見下ろし、にやにやと陰湿な笑みを浮かべるクルルにドロロが怯む。
「なっ!」
「仲間に入れて欲しかったら、『私はダメな人間です』って言ってみなぁ。く〜っくっくっく」
「うう、言うもんか」
思い出す……。苛められてた頃。
ボクを苛める奴は、皆あんな目をしてた……。
ドロロのトラウマスイッチが微妙に入る。
クルルの陰湿な精神的攻撃に、ドロロが「あの頃」を思い出して走って逃げ出した。
「一体何を企んでいるのでござるか……」
追い出されたものの、小隊の他の皆が何をしているのか気になるドロロ。
まさか、またよからぬ事を考えているのでござろうか……?
そう思うと居ても立ってもいられなくなり、アサシン兵術を駆使して中を覗く。
……そこには、「お誕生日おめでとう」のパネルを和気藹々と作る小隊メンバーが。
「え、誕生日……?」
ドクンと大きく心臓が脈打った。
「ぼ、ボクの」
ダメだ、期待してちゃ駄目だ。
また、裏切られる。
……でも。
ドロロの胸は期待に高鳴るのだった。
クルル特製催眠ガスを充満させたドロロの部屋。
ケロロの予定ではドロロは眠りこけているはずだったが、アサシンである彼にはクルルの催眠ガスも効かず、ひたすら寝たふりをしている。
皆の心遣いを無にしないためにも、ここは寝たふりを突き通すでござる。
そう思って、瞼を閉じてじっとする。
「ドロロ先輩、寝てますかぁ?」
超空間からぴょこっとタママが顔を出し、ドロロの様子を伺った。
「気配には敏感な奴だからな」
「大丈夫、クルル特製ガスでぐっすり眠っているであります。今日は小雪殿も家を開けているから好都合であります」
ケロロとギロロがそう話している間、タママがじーっとドロロの寝顔を見る。
「この口布の下、気になるですぅ」
ひ〜〜〜。
口布をめくろうとするタママに、ドロロが焦る。
ゴクリ。
「今、生唾飲み込む音しなかったか?」
しまった!
思わず飲み込んでしまった生唾の音を地獄耳のギロロに聞かれ、ドロロが焦る。
「もしかしてドロロ先輩、目が覚めてるんじゃねぇの……?」
「なんでそんな事するですぅ?」
「きっと、一生懸命な俺たち見て内心で馬鹿にしてるんだぜぇ」
クルル殿じゃないんだからそんな事しないでござる!
「今、俺じゃねぇんだから……って思ったんじゃねぇか?」
ひー電波で拙者の心を読んでるんでござるか!?
「確かめてみてくださいよ隊長。寝てると瞼がうっすら開いて眼球運動してるはずだぜぇ……」
クルルがそう言うと、小隊メンバー全員がドロロの瞼に注目する。
必死で目を半開きにし、目を左右に動かすドロロ。
「………………大丈夫、目が遊泳している。ちゃんと寝てるであります」
ケロロはそう言ったが、疑い深いクルルがこよりを取り出した。
「呼吸が整ってるか確かめてみようぜぇ……」
そう言って、ドロロの口布のあたりに紙縒りを持っていく。
ドロロの呼吸に合わせ、規則的に揺れるこよりに異変が起きた。
「ンゴ!」
しまった。意識しすぎて呼吸が乱れたでござる!
「なんか今呼吸が変だったぞ……」
「眼球運動も止まってるですぅ」
「タヌキ寝入りかどうかは足の裏を擦ってみれば判るぜぇ。ウソ寝だったらくすぐったいが、本当に寝てたら親指が反る」
ひークルル殿つまらん知識持ってるでござる!!
内心焦るドロロをよそに、ケロロがドロロの足の裏を擽る。
「お、反ってきた」
プルプルと振るえながら反るドロロの親指。
「呼吸が荒いぞ、なんだ?」
「凄い汗ですぅ」
無理やり足の親指を反らせているドロロの足に悲劇がおきた。
「くわっこむら返り!」
ピキーンとふくらはぎに痛みが走る。
「ケー!」
痛みに奇声を上げてドロロが飛び上がった。
予想外の展開に一同がはっとなる。
飛び起きたドロロとケロロの目があう。もはや誤魔化しきれない状態にごくりと双方が唾を飲んだ。
「こ……」
隊長の口から絞るように声が漏れる。
「こ、これは夢でありますよぉ」
「ボク達は夢の妖精さんですぅ〜」
えっケロロ君嘘でしょ!?
あまりの事に固まっているドロロに軽いノリで二人が妖精を意識して踊りながら近づいてきた。
「トアタッ!」
タママが首筋に手刀を叩き込み、ドロロを落とす。
「ふう、かろうじて事なきを得たですぅ」
「とにかく、ドロロは気配に関してとても敏感であります。皆静かに準備するであります」
あれだけやれば誰でも起きるでござる!
不幸にもまだ寝られないドロロが心の中で叫んだ。
「ドロロの回りにプレゼントを並べるであります」
ケロロが楽しげに号令すると、ギロロがずいっと歩み出る。
「俺は機関銃だ」
「我輩はダブって買っちゃったCD」
「ボクはドロロ先輩の大好きな小雪ちゃん人形を作ってあげたですぅ」
そう言って、タママがおどろおどろしい人形を取り出した。
原材料、藁、シーツ、墨、モップの柄。
墨で書いた顔は墨が垂れ落ち凄まじい出来栄えになっている。
「まだ墨が乾いてないですけどぉ」
そう言いながら、自信作のそのスプラッタな人形をドロロの布団の中に並べて入れる。
「今日はユッキーが側に居なくてきっと寂しいですぅ。横に添い寝させるですぅ」
……なんか凄い事になった。
そういやぁ、タママはバレンタインデーにもなんか凄いの作って我輩にくれたでありますなぁ〜。
これは、あの時以上の力作であります……。
それをもらうのが自分じゃなくて本当に良かったと思うケロロだった。
「く〜っくっくっく」
一気にホラーになったドロロの様子を見て、クルルが楽しそうに笑った。
「先輩の好きな花を並べて二人だけのパラダイスにしてやろうぜぇ。どうだい、幸せそうだろ? く〜っくっくっく」
にやにやと笑いながら、ドロロの好きな花を周りに並べていく。
タママの小雪ちゃん人形とクルルの小粋な演出で、ドロロの部屋は一秒でもこの場にいたくない空間に仕上がるのだった。
「なんかかわいそうになってきたな」
「怖いであります」
ドロロの様子を見てケロロとギロロがそう呟いたが、止めない。
自分のことじゃないし。
「んじゃまた明日。ドロロが起きる頃ここに集合ね」
予定では、ドロロが起きた瞬間にクラッカーを鳴らし、歌を歌う手はずになっている。
「んにゃぁ、夜更かししたから眠いですぅ。明日早いのに……」
とろんとした瞼を擦りながらタママが言うと、ケロロが心配そうな顔をした。
「ちゃんと起きて来いよみんな〜」
「そういうお前が一番怪しいんだ!」
すかさずギロロが突っ込む。
「我輩寝てたら起こしに来てね、ギロロ」
「寝ないように軍曹さんのお部屋で徹夜するですぅ」
「おっ、それいいねタママ」
「く〜っくっくっく。いい酒あるぜぇ」
「酒はまずいでしょクルル〜」
小声で囁きあい、小隊メンバーがドロロの部屋から撤退する。
誕生日の朝、起きてみると部屋の中はいつのまにかパーティ会場……。
周りにはお花やリボン、プレゼントの山。
セリフ「我輩達は君のこと忘れてなかったんだよ?」
小隊の仲間の心憎い誕生日の演出。むせび泣くドロロ。
予定ではそうなるはずだった。
ケロロ君たち、まだかなぁ……。
結局夜通し起きていたドロロは、薄目を開けながらケロロ達がくるのを今か今かと待っている。
だが自分の隣は見れない。怖すぎて。
どうやって起きたふりしよう……。わざとらしくならなきゃいいけど。
本当に遅いなぁ……。
この状態で居るの、結構嫌なんだけど……。
ドロロがいいかげん痺れを切らした時、ドロロの部屋へ来る忍び足が聞こえた。
あ、来た。
ドロロがその時のために瞼を閉じる。
部屋の襖が空く音がした。
「きゃぁぁぁぁぁぁ、ドロロ、どうしたのぉ! 早まらないでよドロロ〜〜」
聞こえてきたのは、ハッピーバースデーの歌じゃなくて小雪の悲鳴。
ケロロ君たちじゃないっ!
ドロロの心臓が早鐘のように鳴った。
こ、小雪殿ッ、小雪殿に今の拙者の様子を見られたでござる!
焦って頭がパニックになる。
「ドロロ、変だよドロロォ〜〜。どうしちゃったの? 何があったの? 悩みがあるならこんなになる前に相談してよ〜」
小雪のマジ泣き声に変な汗が出てくる。
花に囲まれ、顔の墨が滲んだ奇妙な人形と同衾している自分。
どう考えても頭おかしいでござる!!
小雪殿っ、違う、違うんでござる! これは、これは隊長殿達がっ! 起きてそう言いわなくちゃ!!
だけど今の自分を想像すると怖くて目があけられないでござるっ!!
その頃のケロロ小隊。
寝てました。
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