今夜はブギー・バック



 今夜は、河内鉄生の六代目襲名記念パーティの日だ。
もちろん武装戦線のメンバーは強制参加。誰か一人が急性アルコール中毒でぶったおれでもしね−限り、誰一人返さないという俺達らしいっちゃらしいイカれたパーティだ。
とまあ、わるそーに言ってみたが、ただ仲のいい仲間達で朝までバカ騒ぎして楽しもうっていうやつで、うちらの仲じゃ誰一人帰ろうとする奴なんていねえんだけど。
 そういやー、俺が去年武装入りした頃は、丁度好誠のアニキの襲名パーティだったっけ。
あんとき俺ははまだ入ったばっかのぺ−ぺーで、源次のアニキが無理矢理ウォッカのショットを一気×5杯なんて無茶させやがるから、帰りは意識なくて気がついたらあのバカ鉄生のヤローの背中だったっていう胸くそわりー思い出もあったっけな。ちなみにその後なんか家の近くの公園で大ゲンカしたような気がするんだが、なんでケンカしたかさっぱり思い出せん。
 まー、色々あったが今日は俺の副ヘッド襲名記念でもあるんだ。確かに頭になれなかったのは悔しい。ではあるが、あいつとヤってみて思ったんだ。こいつに賭けてみてもいいか!ってな。

 

 時計の針は間もなく夕方の6時を指そうとしていた。
清広は、自分の部屋の鏡の前で左右のヘア−・スタイルのバランスを確かめ、草髪のハネ具合を確かめて、一通りウンウン唸った後、何もかも新品で揃えた服と自分を鏡に映してから満足そうににまーと笑った。
 今夜は武装のパーティだ。主役が派手にいかなくちゃ始まらないだろ、と先週はガヤを連れて買い物に出かけた。使った金、ウン十万。もちろん新しいジャケットにはT.F.O.Aのロゴと髑髏も入れた。

 銭家一家の一件で鉄生と跡目争いで喧嘩して、負けて、ひと段落して。暫くの間落ち込んで、まあいいかと開き直って鉄生を支える事に決めた。男に二言はない。
誰もいない玄関に鍵をかけて、家を出る。清広はガレージ奥の方から親父のマジェスタと擦らないようにゆっくりと単車を出して、エンジンをかけた。
パーティは9時からだから、まだ時間がある。湾の方をグルっと回ってツーリングしてから行くか、とヘルメットをかぶろうとしたその時、

「おいッ!清広〜!」

 聞きなれた鉄生の声が清広を呼び止めた。チェッと軽く舌打ちして振り返る。見なれた坊主頭に深い十字の傷、白のタンクトップから除く和紋の刺青、あいつが持ってる中で一番いいレザージャケット。六代目武装頭の襲名だっていうのに出で立ちはいつもとそんなに変わらない。まあ、コイツに新品を買う金がねーっていうのもあるだろう。それに、鉄生に内緒で武装の皆でカンパして上着を買ったからいいか。鉄生には勿体無いくらいの高いやつだ。

「よお、六代目頭。」

 清広の声にはたっぷりと皮肉が入っている。鉄生は気に食わんと言った顔で清広の頭を小突いた。
しかし、その3秒後には二人同時に大爆笑だ。もちろん、清広は鉄生に頭の座を譲った事に未練はない。

「おっ!なんだよ清広!お前いつこのジャケット買ったんだ!?」

 よく見たら清広が身につけている物どれも新しい事に鉄生は気付く。

「先週。カッコイイだろ。へへん。っていうかよ、お前こんなとこで何やってんだ?もう行くのか?」

 清広の問いに、鉄生は答えない。それよりも新品のジャケットがよほどうらやましいらしく、裏地を確かめたりロゴにさわったりして感触を確かめている。

「いいよなー!ボンボンは!俺なんて今月ピンチでよーしかもユキに小遣いまであげちゃってよー」

 言葉の中の、ボンボンというキーワードに清広はムッとした。

「お前がビンボーなのは変な事に金使うからだろ!もー行けよ!どうせ8時には顔合わせンだからよ!じゃーな鉄生」

 鉄生を無視してバイクのエンジンをふかす。本当に行く気の清広をあわてて鉄生は呼び止めた。

「おいおい!まてよ。実をいうとよ−、今暇人でな。スクラップ置き場行っても誰もいねーんだよ。絶対みんな家でめかしてるんだぜ。んでよ、あのよ、……。」

「だあッ!いらいらすんな!で、結局なんなのよ?」

「あのう…、時間まで一緒にあそばねー?」

 一瞬鉄生が可愛く見えた様な気がする。
いや、たぶん気のせいだが。


 実際のところ、清広が鉄生と一緒にいた事なんてそうそうない事だった。
今までは集会で目があえばいがみ合い、喧嘩して、けなしあって、という感じだったから、だから、鉄生が好きな物とか、タイプとか、友達なら当然のように知っている事を清広は知らない。だから、今俺は少し緊張しているのかもしれない。

「ぐわ〜!すっげいい眺めだな!」

 鉄生といえば、そんな清広が感じている『気まずさ』みたいなものは一切ないらしく、清広の何時もの『独りツーリング』コースからの絶景にひたすら感心している。

「はあ〜、お前いいコース知ってんなー!こんど俺も単車もってくるからよ、一緒に走ろうな」

 なんとなく、鉄生がもう『友達』として見てくれているようで、照れが出てすぐには言葉が出ない。

「オイ、オマエ聞いてる?行こうな−!って、聞こえた?」

 鉄生は、風の音で清広の耳に入ってなかったと思い込んで、今度は耳もとで怒鳴った。
 うるせー、聞こえてるよ。耳もとで言うなバカ。と心の中で清広は叫ぶ。どうしてだか、心拍数と体温が上がっていく。

「ああ、わかったよ。そんかわしあんま皆にバラすなよ。ここは静かなとこがいーんだから」

 なるべくぶっきらぼうに返す。なんとなく、清広の性格上鉄生に対しては、いかにも期待!みたいな対応ができない。というかしたくない。まだ気を許したわけじゃねーんだぞと突っ張ってしまう。
 そんな清広の態度も気にせずご機嫌の鉄生の気配を背中に感じながら、清広は早く高台に着きたくて、スピードを上げる。
 やがて、バイクは高台の公園前で止まった。

「ははッ、鈴蘭高校があんなちいせーぞ!あそこはピカピカしてるから繁華街、俺の家はあそこかなー?」

 無邪気に一人で喋っている鉄生。いつもの厳つい顔で他の連合の奴らを睨み付け、後輩に喝を入れる姿とは全然違う顔だ。仲間と一緒にいる時は笑顔でバカ言ってる事も多いけど、あれとはまた違う無垢な表情。
 清広は、高台に着くと、ぽつんと一つだけ置いてあるぼんやりと光った自動販売機からホットコーヒーを2つ買って、その1本を鉄生に手渡した。

「おお、サンキュ」

 しばらく2人で黙って、どこまでも広がっていそうな星空と、町の夜景を眺める。小さく吐く息は白く、冬の到来を意味している。

「よろしくな、六代目」
「ああ」

 ちらりと鉄生の方を見ると、少し前から清広の方を見ていたらしい鉄生と目があう。
なんてえ目しやがる、鉄生から『頭』としての存在感を感じた瞬間。かなわないな、お前には。
 清広も、ハハッと笑ってコーヒーの缶を鉄生の前に差し出す。鉄生はそれに答えてコツンと自分のコーヒーの缶をあて、一気に飲み干してから3メートルは離れているゴミ箱に見事に投げ入れ、ッシャ!とガッツポーズをしてまた笑った。

「タバコ吸うか?」
「ああ。」
「ほれ、火ぃ。」
「おー、サンキュー」

 鉄生とのそんなたわいのないやり取りが、何だか新鮮に思えて、清広の表情も穏やかな笑顔になる。

「心配するな清広!ニョーボ子供が飯くいっぱぐれるようなマネはしねーから!」

バンッ!!といきなり肩を組まれ、飲んでたコーヒーをブッと吐き出しそうになる。

「バカヤロウ!なにすんだよ!いてーなコノヤロー。しかもニョーボって誰じゃい!」
「カッカカ…、おめーに決まっとろうが!やさしくするで〜」
「あほか!殴るぞコラッ」

 たわいのない会話、お互い顔を見合わせて笑う。 もう『気まずさ』なんて吹き飛んでいた。

 急に、鉄生がぴたりと笑うのを止めて、ゆっくりと手を伸ばして清広のくちびるの傷に触れた。
いままでの流れからは読めない鉄生の行動に吃驚して、清広はとっさに鉄生の腕を掴んだ。

「な、なんだよ急に、傷が珍しいわけでもないだろ。」

ちょっと動揺しているのが声に現れる。

「ちがう、触ったのは傷じゃねえ。唇」
「はあ?」

 もっと動揺する清広、先程とは比べ物にならないくらい心拍数も体温も上がっていく、ような気分。
鉄生の刺すような視線に、目を逸らせない。
 鉄生は、暫く清広を見つめていたけれど、チェ、と舌打ちして視線を逸らした。
清広に背を向け、ふて腐れたように肩をいからせたまま暫く黙っていたが、清広が何だよと問えば、少しづつぽつりぽつりと口を開き始めた。

「好誠のアニキの襲名パーティでよお、俺オマエを単車に乗せて帰ったよな」
「ああ…あんまっていうか全然覚えてねーが、そのようだな」
「え!?覚えてないのかお前!」

 バッと振り向いた鉄生はひどく吃驚した顔をして、わけわかんねえという表情をした清広の顔をまじまじと覗き込んだ

「ほんとーに覚えてねえのか!?」
「しつこいな、覚えてないって」

 ショット5杯にその他諸々合計20杯以上飲まされたんだぞ、肩を竦めて『まいった』ポーズをとった。すると、鉄生の顔がだんだん不機嫌になっていく。ブルドッグみてえな不細工なカオになってるぞ、と清広は思ったが口には出さなかった。

「は?なんだオメエ?何があったって言うんだよ?いや確かに殴り合ったっていうのだけはおぼえてるけどよー。朝起きたら体中痣だらけだったからな。でもそれ以外は覚えてねー」

 鉄生は答えない。まいったな、俺もしかして背中にゲロでも吐いたかな、などと記憶の糸を辿ってみるが、もう1年も前の事だし覚えていないものは覚えていないのだ。

「お前、俺にキスしたんだぞ」

 鉄生は、いつのまにか吸い終わったタバコをブーツの先で踏みつぶしながらうつむいてそう呟いた。

「は!?俺がオメーに!?嘘つけ。」

 一体何を言い出すんだと清広は鉄生をハナで笑い、お前の笑えねー冗談にはつき合ってられん、もう行こうぜ、と言おうとして鉄生の肩に手をかけた時、鉄生が凄い剣幕で怒りだした。

「嘘いってねえッ!」

 この瞬間湯沸かし器が!清広は鉄生の切れやすい性格にウンザリする。

「阿呆!なんで俺がお前みてーなゴリラ顔にキスしねえといけねーんだよ!」
「しるかっ!お前がオンナの名前呼びながらしてきたんだろ!」
「え……マジで」


思い当たる節はあった。そういえば、中坊の時から付き合っていたオンナにふられたのもその頃だった。一コ上で、初めての女で、その当時かなり入れこんでたのも確か。ふられたのは、若気の至りですぐやりたがったのが原因か。源次の兄貴が俺にバカスカ飲ませたのも傷心の俺を慰めるためだった。


----------------------------


どうやらコイツの言っている事はあたっているらしい。信じられねー事だが、俺はこのゴリラハゲに舌まで入れたらしい。やっべ〜想像したくねえ〜〜!アルコールはマジ恐ろしいぜ。
とかなんとか言ってる場合じゃないぞ義巳。で、一体こいつは何をいいてえんだ?問題はそこだ。
俺は素直に「すまんかった、もう二度と致しません」とあやまりゃーいいのか。しっかし、こいつも今さらそんな過去の話持ってくるかフツー?しかもした本人に言うか?よほど俺にされた事がショックだったのか?にしてもわけわからんやつだ。まーここは文句言わずに殴らせてやるか。



「よし!わかった鉄生!俺も文句はいいわねえ。正直スマンカッタ!俺をどーとでもしてくれ。そんかわし、明日から恨みっこナシだぜ」

 どーぞ殴ってくださいと、片手に持っていたタバコを放り投げゴロンと芝生に寝転がる。暫く目をつぶっていると、案の定鉄生が俺の前に馬乗りになってきたようで、ずしっと体重を感じる。あーあ、こいつ手加減知らねーからな。まあパンチ1発くらいだろうから別にかまわねえんだが、顔を腫らすと後で皆に聞かれるのが面倒だな、などと清広はぼんやり考えていた。
 鉄生は全く動く様子がなく、ジッと俺の顔を見ているようだ。なんだよ、早くしろよと他人事のように考える。その時、やっと鉄生が動いた。

「本当に、どーとでもしていいんだな?どーとでもするぞ、清広」
「え、は?待て声が近っ…」

 鉄生の声が鼻先ぐらい、やけに近い距離で聞こえる。何だかいやな予感がして頭を上げようとした時既に遅し、清広は凄い力で頭を地面に押さえられ、もはやキスとは言えない程の激しいキスをされる。歯と歯があたって痛いが、それでも鉄生は止めようとしない。苦しくて撥ね付けようとするが、確かにケンカでは負けたとは言え、清広だって腕っぷしには自信がある方だが、相手は自分に体重をかけているのだ。撥ね付けられるはずがない。だんだん息も苦しくなってくる。頭は真っ白だ。清広は、どうして鉄生にこんな事をされなくてはならないのかわからなかった。報復にしては悪趣味だ。それとも。

「っはあっ、はあっ、て、てめー何のつもりだッ!?」

 ようやく鉄生から解放され、清広は起き上がりざま鉄生を睨み付けた。
 すると、鉄生は今まで見た事もないような切ないような、哀しいような顔をして清広を見ていた。その表情に思わず清広はひるむ。カッなった熱も急激に冷めていくような感覚が清広を包む。

「どうした、鉄生、お前なんかあったんか?」

 何にしろさっきの鉄生は尋常じゃない。

「おれも、わからん」
「はあ?」

 予想外の言葉に拍子抜けする。俺もバカだがこいつはもっとバカだから、下らない事で何か悩みでも抱えているのかもしれないと思い、鉄生のほほに手のひらを当ててよしよしと撫でた。清広は、そういう保護者ぽい所もあるのだ。

 「お前は酒の勢いかもしれんが、俺はちげえぞ!」

 うつむいていたと思っていた鉄生が、いきなり顔を上げて怒鳴った。頬にあてた手の平を強く握りしめられて、清広はウッと呻いた。なんてバカ力だ。

「何だよてめー!俺にキスした事も忘れてやがるし、俺がキスしても、慰めやがるし、何で殴らねー!?なんで 素直に気持ち悪いって言わね−んだよ」

 鉄生の瞳から涙が流れる。ああそうか、こいつ俺のこと好きなんだな。と清広は思った。コドモみたいにヒンヒンないて、きたねー面、と清広は思ったが、気持ち悪いとか、そう言う事の前に鉄生は清広がとことんついていくと認めた『漢』であったし、人間的にも好きになりはじめていたので、正直そんなに嫌と言う気はしなかった。ただ、このゴリラ顔が清広みたいな凶悪面のどこに欲情したのか、そこがわからんところだな、とは思った。並んで歩いても、カップルと間違えるやつはまずいないだろう。

「くそッ、どうにかなっちまいそうだ」

 相変わらず酷い顔で泣きじゃくる鉄生が低く呻いた。鉄生にしてみたら、やっとの思いで1年前の事を聞いたのに、当の本人が覚えてもいない、そこでムッときて無理やり唇を奪って、殴り合ってスッキリするかと思えば清広の中途半端な優しさに戸惑って、爆発して、それこそどうにかなっちまいそうなのだろう。
 もしかしたら、自分の感情がなんなのかわかっていなくて、恋心だというのも気付いてないのかもしれない。

「今日だって、お前に声かけたの偶然じゃねーんだぞ」

 もうすでに『言いたい事言うぞモード』になっている鉄生は、さっきから過去のエピソードをぼそぼそ話し始めた。俺はホモってワケじゃないとか(男にこういう感情を抱くのは初めてらしい)、ただ、清広と喧嘩してたのは本気でむかついていたからで、好きとはまた別の感情だったらしい。本当にこいつは本能で生きてるんだな、とある意味感心する。

 あとは清広が、受け入れるか受け入れないか、それだけだった。
鉄生と男と女の関係になるとか、そんな事ではないと思う。
 鉄生は清広が好きで、清広も鉄生も好きだ。鉄生のがどう好きなのかはわからないが、清広の好きはあくまで一人の男としてという意味であったけど、そんなことは今に限ってはどうでもいいような気がした。

「まあ、落ち着け鉄生」

 清広は、泣きじゃくる鉄生の涙を手の甲で拭って、両手で顔を包み込んで、ニッと笑ってみせる。

「俺も、お前の事好きだぜ?」

 一瞬時が止まったみたいに間抜けな表情で鉄生は清広の方を見た。

「さあ、楽しいパーティはこれからだぜ頭!もうそろそろいかねーと遅刻しちまうぞ!」

 そういって、立ち上がろうとした清広の腕を掴んで凄い力で引き寄せられる。本当に鉄生は加減と言う物を知らないのか、悲鳴をあげそうなくらいの衝撃が後頭部を襲う。清広は地面に仰向けになり、鉄生はさっきと同じような馬乗りだ。

「ば、バカヤロ−!いてーじゃねえかよ!」

 鉄生のゆっくりと顔が近付く。キスされる!と思って避けようとしたが、時既に遅し。

「え、は?待て顔が近っ…」

 さっきのとは違う、鉄生の顔からは想像もつかない程の優しいキス。しかも、信じられない事に結構上手い。清広は、鉄生は女の子関係はてんでダメだと思っていたが、そうでもないのかもしれないな、と思った。
 鉄生にようやく開放されると、お互いの唇に透明の糸がつたっているのを見て、「ああ、俺達キスしてたんだ」と終わった後になってやっと実感がわいた。別に嫌な感じはしない。だからといって、男とキスするのが平気になったわけでは全然ない。平気なのは鉄生だからだ。

 お互い言葉を失って、何となく見つめてると、鉄生が第2弾とばかりに顔を近付ける。パーティまでもうあまり時間がねえんだけどな、と思ったがあと1回くらいならいいかとこんどは自分から目を閉じた。

 キスされながら、清広は仰向けの状態からジリジリと体を起こす。鉄生はそんな清広の様子に気付いてはいたが止める気はないらしく、唇を舐めるようにしながら動きについてくる。その後も、どうにか起き上がろうと手探りでつかまる物を探そうと手を上げたが鉄生に掴まれてそのまま鉄生の肩にしがみつかせた。

「動くんじゃねーよ。集中出来ねえ」

 鉄生のドキッとするような、低い囁き声にびくっと反応する。なんだかわからないけど上がってくる心拍数と体温。俺も、少しおかしくなっているのかもと清広は思った。

 そのうち、鉄生の唇が左の首筋に移動してきた。左のタトゥーを舌でなぞられて、コレはさすがにやばいと思い、清広は焦った。そうこうしているうちにジャケットのジッパーにも手がかけられている事に気付く。 こいつまさかやるつもりなのか!

「ば、バカ!どこ触ってんだよ!勘違いするなよ!俺はただ…」
「んだよ、お前も好きって言ったじゃねーかよ。違うのかよ」
「うっ…」

 そういわれると、言葉が詰まる。しかし、清広は鉄生とSEXまでしたいとは思わない。カラダはあくまで男だ。しかも、この流れで言うと清広の役目は間違いなく女だ。

 「まあいいや、今日はコレくらいで勘弁してやるぜ!で、どうだった?」 

 なんだかんだいっても鉄生は満足しているらしく、地面にへたっている清広の手を掴み起き上がらせた。

「どうだったって、何が?」

 鉄生が一体何を聞きたがっているのか純粋にわからずに、清広は聞き返した。

「何がって、キスだよ!俺はなー、対ポコチン九里虎用にカラダを鍛えているだけでなく、対おめ−用にテクニック磨きにも余念がねーんだよ!」

 どうやら女の子経験が豊富と言うわけではなくて、AVで研究してただけらしい。本物のバカだな、と清広は頭を垂れた。

「お前なー、まじで、頭鍛えろよ……」

 呆れたように言う清広をよそに、鉄生は続けた

「まじで、この前すっげーテクを教えてもらったんだよ!柳のアニキによ−。おっ、そうだお前の事で悩んでいるって言ったらよ、『心配する事はねー、ガンガン行け』って言ってくれたのもアニキなんだぜ」

 まじかよ…、と清広は思った。柳のアニキめ自分達もそうだからって、6代目にまでけしかける事ないっしょ。まったく、あの人は…。

 今回の事に柳が絡んでいる事に妙に納得して、なんだか俺らってまだ5代目に踊らされてんのかななんて清広は考えたが、鉄生にトコトンついていく事だけは曲げるつもりはなかった。

「俺はよ、お前をイカす自信があるぜ!楽しみにしとれよ、カカカ!」

 鉄生のその根拠のない自信は一体どこから来るのか全くわからなかったが、その『凄いテク』とやらはできれば一生使う機会がなければいいのになあ、と清広は思ったが口には出せずに弱々しく「お、おお…」とだけ答えた。

「さー、今夜は飲むぞ清広!」

「そうだな、今夜は六代目頭と副頭のお披露目だぜ。俺達2人アガってかねーとなあ!」

 バイクはハイスピードで麓を目指す。もうみんな集まっている時間だ。清広は、鉄生とはうまく6代目をまとめていける、そんな気がした。たまに制御きかねえ時もあるが、そん時は俺がなんとかしていくさ。
 鉄生といえば、さっきから今夜は寝かさねーなどとやましい事ばかり考えていたのだが、意気揚々の清広はそんな事に気付くはずもなく、真夜中のパーティへと突入していくのだった。




-------------------------------------

ノーマル清広←鉄生みたいなのを目指したはずなんですけど、
清広はもっとふり回される予定だったんですけど、なんか癒してるし。
6卷読みながら、「この顔とこの顔で、ありえねー!」とか言いながら書いてました。
萌えてしまったものはしかたないさー。
タイトルは元ネタと言うわけではないけど、書いてる時聞いてたので。
ボーズ君のラップ部分が鉄生ぽくて好きです。


 

 

 

 

 

 

 

 


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送